クリトリスを御旗に闘っている女性達は、「クリ逝き」「中逝き」といったレベルの議論よりは、もっと深い部分を問題としています。
さて、久方ぶりに性科学学会誌から目を惹いた論文を紹介しましょう。
今回ご紹介するのは、2016年11月号に掲載されている
「Clitorally Stimulated Orgasms Are Associated With Better Control of Sexual Desire, and Not Associated With Depression or Anxiety, Compared With Vaginally Stimulated Orgasms. 」
という論文 (J Sex Med, 13:1676-1685, 2016)。
直訳すると「クリトリスの刺激で得られるオーガズムは、ヴァギナの刺激で得られるオーガズムと比較して、よりよい性欲の制御に関連しているが、抑鬱や不安との関連はない」といった感じかな。
意訳すると「クリ逝きで心が不安定になるなんてことないので、もっとクリで楽しみましょうね」って感じでしょうか。
著者はUCLAの精神分析学部に所属するニコル・プラウゼ博士ら4名。
筆頭著者のニコル・プラウゼ博士。
研究の内容を紹介する前に、クリトリスをめぐる文化的な背景をおさらいしておきましょう。
サロンさんなんて、女の人は誰でも、ちょっとエッチな気分になったら、クリトリスちょこちょこ触って、ピクピク逝って、あ〜すっきり、ってやっているんだろうと思っていますし、Salon de SMのサイトとか覗いている女性の多くも、実際そんな感じなのだと思います。
でも、世界中みんながそうかと言えば、そうもないのです。
まずもって、自慰なんてとんでもない、って思っている女性も、それなりの数はいるはず。
『オナニーのすゝめ』でも紹介しましたように、生殖を伴わないセックス(一人でも二人でも、それ以上でも)を、「罪」とする文化は、結構たくさんあります。
また、とにかく「性的に気持ち良くなることはよろしくない」とする文化も多くあります。苦しめば苦しむほどよいのだと。なので、性享楽なんてトンデモないと。
社会構造が複雑になると、どうしても性を抑圧したほうがいろいろが都合のよいことがあるのでしょう。それが宵のことなのか悪いことなのか、分かりません。
程度の差はあれ、近代国家はなんらかの性に対する規制をしようとしています。
古代文明とか、ものすごく性にオープンだったみたいですよ。夏目祭子さんの『なぜ性の真実「セクシャルパワー」は封印され続けるのか』では、日本のイザナギの時代やマヤの時代には性にオープンだったのに、近代国家の誕生と共に父権制が強くなり、性=恥となっていく過程が書かれていて面白いです。
なので、指先でクリやチンポを触るのは、イケナイことだ、っていう文化があります。
さらに、チンポはいいけど、「女性が性的快楽を得るのはよくないことだ」っていう、男の勝手な都合で作られた文化もあります。結構多いです。
結婚して、30代、40代と、女性の性感はどんどんと増していきますが、男性は肉体的には下り坂ですし、仕事も忙しくて性欲もわかない。奥さんが性感マッサージに店で気持ち良くなるよりは、「女が性の悦びを言葉にするのは、ケシカラン。ふしだら、不潔、淫乱、その他いろいろ!」とかなんとか適当なことを言って、抑える方が安心するんです。
現在、近代国家と称している多くの国々も、つい何十年か前までは女性の性を理不尽に抑圧していました。これは、『メスマー美容術入門』シリーズや『女性用性感治療院』などを読んでいただければ、よく分かります。
極端なのは、アフリカの少数の国で、今なおおこなわれている「女子割礼」。
割礼というと文化的儀式の響きがありますが、ようするに「クリトリス切除」です。残酷です。
これも、その理由はいろいろ説明ができるのでしょうが、ようするに、女性に性の悦びを感じさせるのは、よろしくないという背景でしょう。
日本にはアフリカ系の人があまりいないので問題になりませんが、欧米では、移民してきた国で、母国と同じように子供にクリ切除させようとして、社会問題となることがしばしばです(アフリカでも一部の民族の文化ですので、アフリカの一般的な文化と誤解しないように)。
これに関係した研究論文が、natureの2016年10月27日号に、「Changing cultural attitudes towards female genital cutting.」
として出ています(Nature, 538:506-509, 2016).
「女性性器切断に対する文化的態度を変える」というタイトルです。
女児のクリトリスを麻酔無しで切除するというのは、われわれからすれば無茶苦茶なことなのですが、だからと言って、「お前らそんな野蛮なことをヤメロ」と言っても、文化的な侵略だと、もめる訳です。彼らにとっては、神聖な儀式であるわけです。この問題は半世紀以上、もめています。
「わしらの国では問題なくうまくいっているのに、勝手にあんたらの価値観を押しつけるな!」ってことです。
上のnatureの論文は、性器切除をもつ文化集団に、そうではない選択もあるのだよ、といった内容の映画を見せることで、その文化を変えることができるかどうかの実験をしてみた、といった研究です。
根底には、「悪い文化なので、ソフトに修正してやろう。教育してやろう」といった文化的な介入の態度があります。このような実験が許されるのかどうかも問題となるかもしれませんし、「じゃ、あんたは、女性性器切断に賛成なんですね!」と詰め寄られても応えに窮してしまいます。とても難し問題です。
ちょっと話題が重くなったので、ニコル・プラウゼ博士のクリトリス研究に戻りましょう。
ニコル・プラウゼ博士、テキサスの保守的な家庭に生まれ育った、典型的なアメリカ人。おそらくキリスト教なのでしょうね。
なので、家の中では性の話はタブーだったそうで・・・そういった性に厳格な教育の反動のせいかどうかは知りませんが、現在は、女性の性の解放の旗振り役的な研究者。
『クリションマンの正体』でも書きましたように、ニコル・プラウゼ博士のように、女性の性の解放運動ともいえる活動をしている方達は、クリトリスを性解放の象徴としてとても大切にします。
なので、クリトリスの悪口を言う人に、とても腹が立つのです(多分)。
クリトリスの悪口を言う人とは、どういう人かといいますと、例えば、「クリ逝き」ばかりしていると抑鬱症になったり、不安症になるんだ、とかの研究を発表する人。
まあ、別にデータ捏造しているわけではないでしょうが、この種の研究ってのは、いくらでも自分の考えに合わせた結果がでるような研究デザインができるので、論文になっているからといって、真実だというわけではないんです。
そういった意味でも、ニコル・プラウゼ博士の研究も同列で、「クリ様、最高!」という結論がまずあって、それに合う実験デザインをしていると言ってもよいような内容。
でも、まあ、「クリ逝きばかりしていると抑鬱症になる」なんてのは、とても納得できないし、アンチ性快楽派の人達の理論武装に使われるわけですから、サロンさんはニコル・プラウゼ博士を応援します。
で、肝心の研究内容です。
基本的には、「貴女最近、逝くときにクリで逝きました?オマンコで逝きました?」というアンケートを取り、その結果と、その人の抑鬱・不安状態との関連を調べたら、抑鬱や不安を持つ人に、特にクリ逝きを好む人はいませんでした、ってことです。
もう少し詳しく紹介すると、被験者は18歳から53歳までの88人の女性。でも、ほとんどは、大学の学生さんのようです。平均年齢が22歳と、とても低いです。調査したのがニューメキシコ大学(といっても、メキシコでなく米国ですよ)だったのもあり、ラテン系の女性が一番多く含まれているようです。
一人の男性とつきあっている女性が35%。セフレ多数いるのが13%。半数近くは、今は彼氏いないみたいです。ちなみに処女の人は7%。
「一番最近、いつ逝きました(これは、オナニーでもセックスでもよいようです)」の答えで、「今朝」ってのが7%で、昨日が14%。、一昨日が9%、それ以上、1ヶ月以内が34%で、1ヶ月以上前というのが16%。まあ、22歳の女性なら、こんなところかな。
「自分は逝っていると思うか?」というのに対しては70%が思うで、15%がよくわからないで、15%が逝っていないと思う、だそうです。
こういったアンケート、アンアンの調査と同じノリで、興味深いですね。
「何回も逝くか?」って、そんなことまで聞くの?「はい」と答えた人は28%。
「一番最近逝った時は、何で逝った?」に対し
- オマンコだけで逝きましたが33%
- クリ逝きしましたが46%
- 逝きませんでしたが17% (最近逝った時の質問なので、おかしいよね)
- その他の方法が3%
「普段逝くときは、どこで逝くのが多い?」
- クリの先っぽ 15%
- クリの上の皮膚 10%
- Gスポットあたり 8%
- わかんない 3%
- 乳首 3%
- ビラビラ 1%
- 膣の下(アナル)側 1%
- 膣口 1%
- その他のところ 1%
- 逝ったことない 5%
セックスとオナニーの頻度も質問しているのですが、質問がちょっとシンプルでないです。答えは、おおよそセックスがほぼ週1で、オナニーは週1弱。
あとは、抑鬱傾向や、不安症を探る定型の質問というのがあるそうで、そういうのもやっています。
こういった一連の質問のあとに、エッチなビデオや、エッチでないビデオとかを見せて、「もっとエロい気分になって〜」「エロイ気分抑えて〜」とかの指示を出して、その指示に従えたかどうかという、実験ぽいことも全員にやっています。これでもって,題名にもある 「性欲の制御」能力の指標としているそうです。
あと、いろいろ統計的解析をおこなって、「クリトリスの刺激で得られるオーガズムは、ヴァギナの刺激で得られるオーガズムと比較して、よりよい性欲の制御に関連しているが、抑鬱や不安との関連はない」というインパクトのない結論を出しているのですが、最初にも述べましたように、最初に結論ありき、みたいなあやしい論文となっています。
まあ、世の中の科学論文、9割ぐらいがこのようなあやしい論文なんですけどね。
でも、UCLAというエリート大学に所属し、若くて美人で、スケベな研究内容となると、マスコミが飛びつきますよね。ELITE DARILYというwebニュースでも取り上げられています。
アンケート結果は、娯楽雑誌的な面白さはありますが、そもそも、チンポで逝った時と、オナニーで逝った時の区別もしていないし、強引にクリ逝き派に旗を上げるような、結果ありきの研究です。
論文の最後では、「だって、大学が研究室で実際に被験者を逝かせる実験を認めなかったんだモン!」と不平を述べています。生身の人間を使った研究は、必ず大学の倫理委員会の承認を得ないと、研究費も出ませんし、論文にも出せません。ニコル・プラウゼ博士の研究は、アンケートでの調査しか許されなかったようです。
まあ、やはり週刊ポストやアンアン向きのアンケートだとは思いますが、クリで逝くことに後ろめたさを感じる女性が減るならば、良いのかもね。
みなさんも『カーママッサージ美容術』で感じるクリを磨いてください。
UCLAの女性の健康会議で発表するプラウゼ博士。
「TEDx」ってのは「TED」とはちょっと違うのですが、でもまあ、ちゃんとした公開講座です。
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