(『メスマー美容術入門11-支配と深度』と『SM美容術入門34-内包する支配力』とは同じ内容です。)
『SM美容術入門27-安心安全縄空間』では、責め手の支配力の強さの違いにより、SMプレイの内容を分類してみました。
受け手と責め手の力関係が「ほぼ対等」でも、かならず、責め手の方が1%でも、0.1%でも支配力が強いことになります(でないと、「責め手」とはなりませんものね)。
例え僅かでも、支配力の強い方が、プレイ全体の責任を負わなければならないことになります。
催眠術の場合にも、催眠術師と被験者(催眠術をかけられる側)にも、同じような支配力の「程度」の違いが存在します。
『メスマー美容術入門09-催眠術師色々』で紹介した、「古典催眠」では、催眠術師は100%に近い支配力をもつような感じになり、実際、「あなたは椅子から立てない!!」「3つ数えると私の言うとおりになります。必ずそうなります!」と断定・命令口調での指示を与える場合が多いです。
これが「現代催眠」「エリクソン催眠」となると、「あなたは、すぐに目が閉じるかもしれませんし、ゆっくり目が閉じるかもしれません。あるいは、目が閉じないかもしれません。」といった感じで、何でもOKよ、といった許容的な誘導手法が多く使われます。
また、少なからぬ人達(サロンさんもそうですが)、トランス誘導は、掛け手と受け手がお互いに影響しながら、つまり掛け手も受け手と同じように、トランス状態(催眠状態もトランス状態の1つの形)に入っていくと考えており、この場合、支配関係はやはり「ほぼ対等」に近くなることになります。
ただし、やはり全体の責任は少しでも支配関係の強い方がもたなければなりません。
このように、SMプレイ、催眠プレイでの「支配関係の強弱」でプレイの質を分類したのが『SM美容術入門27-安心安全縄空間』『メスマー美容術入門09-催眠術師色々』での作業でした。
ちなみに、「支配力が100%に近い」方が、「本格的なSM」「上級SM」「優秀な催眠術師」てなことは、全くありませんので誤解のないように。SMプレイの支配力の割合は、あくまでご当人達の「好み」です。「絶対支配者と奴隷」といったシチュエーションでのプレイが好みの人達もいれば、どちらがSか分からないようなプレイがお好きな人達もいます。また、催眠誘導の場合には、ステージ催眠では催眠術師の支配力が強い方がメリハリのあるショーになるでしょうし、臨床催眠では、施術者の支配力を極力抑えないと、患者の抵抗により治療がうまくいかなくなることが多いようです。
さて、今回は、「支配関係の強弱」に加えて、「支配力の深さ」のパラメーターを加えて、SMプレイ、催眠誘導を考えてみてみましょう。
支配力の深さ
「支配力の深さ」「支配関係の深さ」っていうのは、なんとなく感じは分かるのですが、厳密に定義することは難しいです。
「100%の支配力関係」、つまり「絶対存在のご主人様」と「完全奴隷」のSMプレイといっても、
「よーし、僕はナニナニちゃんのご主人様。さあ、三つ指ついて、よろしくお願いします、って挨拶して、ご挨拶のご奉仕をしなさい」
「はいご主人様。ナニナニをよろしくお躾けください♥ ペロペロ」
ピュッ、ピュッ。
「あ、出ちゃった。気持ち良かった。また今度も遊ぼうね」
なんて「軽い」あるいは「浅い」SMプレイもあり、これはこれで、楽しければOKです。
こういうのではなくて、もっと深いレベルで心も体も完全にご主人様に支配され、プレイの時だけでなく、生活の全てをご主人様のために捧げる、といったディープなプレイもあります。こういうのは、「深いSMプレイ」といっても異論は出ないと思います。
あるいは、前者の「浅いSMプレイ」は「支配関係が対等に近い」と捉えるべきで、支配関係が100%に近くなると、必然的に「深く」なるはずだ、という意見もあるかもしれません。
しかしながら、逆に「支配範囲が対等に近い」関係が、「浅い状態」かといえば、それは必ずしもそうではないと思います。
これを、SMではなく、催眠での「深さ」で考えてみましょう。
古典催眠では、しばしば被験者の催眠の深さを「軽催眠状態」「中程度催眠状態」「深催眠状態」とかに分けたりします。「軽催眠状態」では、「足が床にぴったりくっついて、歩くことができませ〜ん」みたいなことが起こる状態。「中程度催眠状態」では、練りワサビを抹茶アイスクリームだと思い、美味しい美味しいとパクパク食べるような状態。「深催眠状態」だと、特定の人だけが見えなくなったり、いつもの友達が、憧れのアイドルそのもになったりとかの状態です。ショー催眠としては、もちろん、より深い催眠状態に入ってくれた方が、面白いです。
しかし、臨床系の催眠ではこれはあてはまりません。臨床催眠では、ステージ催眠と違って、幻視や味覚変換などを必要とはしません。エリクソン催眠で誘導しているトランス状態などは、古典催眠的な尺度で見ると、軽催眠状態に分類されるような状態です。ですが、治療効果はあります。
エリクソン催眠の治療の本質に関しては、おいおい紹介・考察していくとして、ここでは「全チャンネルを用いた受け手とのコミュニケーションルートの確立」とでも言っておきましょう。
「全チャネル」というのは、言葉だけでなく、視覚、臭覚、触覚など、全ての感覚器官を用いた情報伝達です(『タッチ』『SM美容術入門31-『縄と肌』などをご覧下さい)。これは、しばしばサロンさんが言及している「心がコネクトした状態」のことで、三大縄神様の一人、雪村春樹がしばしば言っていた「縄を介したコミュニケーション」ができる状態にもつながります(『SM美容術入門24-縄で心をコネクト』『耳学問3:シンプル縄の奥深さ』などをご覧下さい)。
したがって、ある意味、このような「受け手とのコネクションを完了した状態」というのは「支配力の割合」には関係無く「深い」状態であると言えると考えています。したがって、「対等に近い支配関係」でも「深い状態」は存在するのだと考えるべきです。
【Take-home message-59】対等に近い支配関係でも深い状態は存在する。
ツールのもつ内在的な支配力
『SM美容術入門1-アイテムいろいろ』で紹介しましたように、 SMプレイに関して、実に色々なツールがあります。言い換えると、「深い関係に持ち込むためのいろいろなプロトコールが確立されている」ということです。
ですので、お互いの嗜好を考慮しながら、最適のツールとプロトコールを選択し、組み合わせながら、プレイを進めていくのがSMの醍醐味です。
ここで1つ留意しておきたいのが、「ツールそのものがもつ内在的な支配力」です。
なんだか難しそうにも聞こえますが、例をあげて説明するとよく分かります。
スパンキング美容術というのは、いわゆる打撃系のSMツールをひっくるめています(『SM美容術入門8-スパンキング美容術1』『SM美容術入門9-スパンキング美容術2』などをお読みください)。
打撃系は、かなり威力のあるツールです。
「スパンキング」そのものは、上の写真にあるように、お仕置きのために、お尻をスパ〜ン、スパ〜ンと叩く行為で、手のひらで叩くことが多いです。その他にも、スリッパで叩いたり、靴べらで叩いたり、あるいは、スパンキングマニア専用のいろいろな道具(革製品が多いかな)もあり、それぞれ、受ける(伝える)感覚が異なりますし、さらに、叩き方や、前後のシチュエーションなどを工夫することで、対等な支配関係から、100%の完全な支配まで、また、軽い関係から深い関係まで、幅広く演出できる、とても奥の深いヘンタイ遊びです。
スパンキングマニアの間で、極めて厳しいツールとして扱われるのが「ケイン」です。植物の茎を乾かした細い棒にすぎませんが、これでお尻をビシッ、と叩かれると、一発で深いところに落とされます。英国の学校などで、教師が体罰として、手のひらなどを叩いていたのかと思います。ですので、100%の完全な支配関係を前提としたツールです。別の方向から説明すると、「ケイン」を用いて、「対等な支配関係」に近いスパンキングプレイをすることは、難しいです。
同じように、鞭の場合にも、バラ鞭などでしたら、対等な関係でも、100%支配の関係にでも使えますが、「一本鞭」となると、これもケインと同じように、一発で深い100%支配の関係に落とすことのできる、強力なツールです。「一本鞭」を使う前提として、責め手と受け手が、「100%支配の関係」を希望していることが了解されていなければなりません。
また、手のひらでスパンキングする場合も、オーバーザニーでお尻ペンペンするのと、手のひらで頬をはる(いわゆるビンタする)のでは、伝えるメッセージの範囲が大きく変わってきます。ビンタは「100%支配の関係」を指向したツールです。
念のために付け加えておきますが、単に「ケイン」や「一本鞭」「ビンタ」を使うだけで、「100%支配の深い関係」に落とせる訳ではありません。それを使いこなす技量が必要なことはいうまでもありませんし、そのレベルの技量をもった人達は、受け手と責め手が、どのような関係を希望しているかについて、正確に把握できる人でしょう。
ここでは、スパンキング(鞭も含める)を例に取り、ツールが内包する支配力の説明をおこないました。いろいろなスパンキングの方法の中には、「それを用いると、必然的に100%の支配関係に入る」ものが含まれています。したがって、めざしたいプレイ内容にあわせて、慎重に、スパンキングの中でも、どのアプローチで責めていくか、を決めなければなりません。
SMの各種ツールは、それぞれのヘンタイマニアが時間をかけて開発してきたものですので、強烈な威力をもつものが含まれています。エネマ、ロウソク、縄のテクニックの中にも、強烈な威力をもつものがいくつかあります。「強烈」と聞くと、なんだか「上級」「高級」「めざすべき」と思ってしまいそうですが、それは違います。例えば、「一本鞭」を使ってしまうと、必然的に100%支配の深い関係での遊びしかできなくなってしまいますから、注意が必要です。
【Take-home message-60】「100%支配の関係」に必然的につながるツールがあることに注意。
安全安心な支配関係を楽しみましょう
サロンさんは、個人的には「100%の支配関係」というのは、あまり好きではありません。でも、そういう関係が好きな責め手や受け手がいることは理解していますし、それはそれで全然OKです。互いにそういう嗜好があるなら、「100%支配の深い関係」はとても楽しいものだと思います。
ただ、手法の「強力さ」だけに目を奪われ、やたらめったら、お気軽に受け手を一本鞭で深いところに落としたり、あるいは、強烈な責め縄で深いところに落としまくる人には、大丈夫なのかな〜と、ぼやきたくなります。
「100%の深い支配関係」を利用して、奴隷さんからお金を巻き上げたりする悪い輩の噂もしばしば耳にします。
まあ、しかしご主人様にお金を貢ぐことも「ファイナンシャル・ドミネーション」という、1つのヘンタイプレイのジャンルとしてあるので、両者が納得済みなら、それはそれでOKなのかもしれません。
「両者が納得済み」というところがポイントで、注意すべきは、エロ遊びや恋愛、その他モロモロの楽しいことは、不可避的に参加者がトランス状態に入っていますので、「あの時は、催眠状態にされて、意に反してイエスなんて言ってしまった」とか、後でもめ事になることも注意しておく必要があります。プレイに入る前に十分話し合って、お互い、どのような遊びをしたいのかを確認しておく必要があるでしょう。
「対等に近い支配関係」でも「深い関係」になると、やはり十分な注意が必要となります。
深い部分での心のコネクションは、受け手の心の状態を容易にある方向に動かすことができるようです。
動く方向は、よい良い方向でなければなりません。そうなることで、SMプレイをしたあとに、「何だか疲れが取れてスッキリした」「モヤモヤが吹っ飛んで視界が開けた」といった、幸せな気分になることができます。
そのためには、責め手(掛け手、支配者)側が、ポジティブで楽天的なこころの状態を維持して、プレイに臨むことが大切です。
【Take-home message-61】責め手がポジティブな心の状態でプレイに臨むのが大切。
スパンキングの歴史。
「言葉はウソつくけど、気持ちはウソつかへん」(1:30あたり)とは、雪村春樹が縄を介したコミュニケーションについて語ったものです。
【Take-home message-62】言葉はウソつくけど、気持ちはウソつかへん(雪村春樹)
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