理論化していまうと分からなくなるのが、世の中の常です。

 

 

2013年にヴァンアソシエイツから発売された教則DVD『雪村春樹の縛り方講座~情愛縛りで楽しむ』。

 

雪村春樹の緊縛である「雪村流」の縄の特徴は?、という問いに対するよくある答えに「コミュニケーションを大切にする縄」というのがあります。

こういってしまうと、まるで他の緊縛師は、コミュニケーションを重視していないかのように聞こえてしまいますが、実際のところ、濡木痴夢男にせよ、明智伝鬼にせよ、その緊縛動画を見てみれば、受け手と深いレベルでコミュニケーションしているのは一目瞭然です。

いわゆる「緊縛の達人」と呼ばれる人達は、受け手と、深いレベルで心を交わらせることができる人達のことで、単に手先が器用で、ややこしい縛り方ができるだけでは、達人の域には達しません。

 

「コミュニケーションを大切にする縄」というのが、雪村春樹だけの特徴ではないとすると、では、雪村春樹の特徴は、何なのでしょう?

既に述べてきましたように、雪村春樹濡木痴夢男に大きな影響を受けていますので、縄の完成形だけを見くらべると、類似点も多いです。

(ただし、雪村春樹自信は、濡木痴夢男に影響を受けたなんて、ひとことも言っていません。むしろ、濡木痴夢男は反面教師としての存在でもあったとインタビューで述べたことがあるぐらいです)。

SM美容術入門50 - 雪村春樹(1)』でも述べたように、三大縄神様をセレクトする際に、1に濡木痴夢男、2に明智伝鬼を選ぶのは、文句の出ない部分ですが、なぜ3人目に雪村春樹を選ばなければならないのでしょうか?

濡木痴夢男SM雑誌時代の緊縛師」「明智伝鬼SMショーの時代の緊縛師」「雪村春樹AV時代の緊縛師」と、それぞれの時代に急激に成長したメディアの種類に影響され、特徴を出した3人・・・ということで納得したこともあったのですが、なんだかそれでも腑に落ちません。

 

ここ何回か『SM美容術入門』の「三大縄神様シリーズ」を書く作業を通じて、改めて雪村春樹のなし遂げたことを整理して分かったことは、「雪村春樹はそれまでにない新しい枠組みで緊縛を捉えなおした」という結論に落ちつきました。いわゆる「リフレーミング」です。それまでの緊縛に対する捉え方、受け手を麻縄で縛り、責めたり、悦ばしたりする変態プレイ、という考えを一度すて、改めて、「緊縛とはプレイ相手との深いコミュニケーションのを確立すること」という、それまでとは異なった枠組み・視点で緊縛を捉えなおし、その枠組みの中で、緊縛をさらに発展させた、というところが雪村春樹のなし遂げたことです。

 

このことを理解するために、再度、雪村春樹の足跡を振り返ってみましょう。

写真家からAV監督に転向した雪村春樹は、1992年頃から、自らが映像の中で緊縛師と男優をこなす、ハメ撮りに似た、少人数のスタッフで緊縛作品を製作していきます。

そこでめざしたことは、美しい緊縛パターンや、難易度の高い緊縛技法を披露することではなく、受け手(AV女優)から、いかにエロ美しさを引き出すかです。そのための道具の1つとして、緊縛が使われています。

雪村春樹が。女優からエロ美しさを引き出すためにおこなったことは、受け手の反応をその場、その瞬間で読み取り、それに応じた次の返しを即時にしかけていく・・つまり、円環的な相互コミュニケーシ、です。したがって、台本は重視せず、その場でストーリーを組み立てていく、即興劇のような緊縛プレイへと成長していきます。

この「相手の反応を読み取り」「即時的に次の仕掛けを返す」技法は、1994年から始まる、一連のライブショーでますます磨きがかかります。

即時的な展開を可能とするためには、いわゆる緊縛でいう「結び」は極力減らされ、「掛け」が中心となるものとなります。1990年代には、それまで多用していた「(宙に浮く)吊り」も次第に姿を消し、支点を用いた半吊りが中心となっていきます。

 

SM美容術入門54 - 雪村春樹(5)』には、2000年代に雪村春樹のAV作品の名作が多いと紹介しましたが、この頃の雪村春樹の縄に対する考え方の変化を、S&Mスナイパーの記事から拾ってみましょう。

 

 2004年頃には

 

最近こころがけてるんは… … どんだけ少ない縄で、女のことプレイできるか、やな

縄の本数が多いとか複雑な縛りしてると か、そういうのはマゾにとってあんまり関係ないんやな。

このごろ縄をあまり使えへんようにしてるやんか。シンプルに縛るほど、俺と女のこの距離が近くなるときがある。

 

と、いかにシンプルな縄で受け手との深い心のつながりを確立できるかに興味が移っているのが分かります。縄に対する、新しい枠組みでの捉え直しを試行錯誤していた時代だといえます。

その結果、2000年代の後半には、いわゆる「雪村流」のスタイルをほぼ完成し、そのスタイルに対する自信も深めていったように思えます。この時代のS&Mスナイパーの記事には、

 

縛って、吊って、下ろしてチャンチャンいうのは、 俺はやめとこう。作業してるだけやん

(昔は)ゴテゴテした縄を見せようとして、 次から次と違うデザインの縄かけようと思って。そうすればするほど、下手になった。

縄のこと気にしてたらあかんねんコミュニケーショ ンを取りながらするもんや。だから相手の気持ちを受ける。受けながら、また展開していく。

縄というのは縛り方やなくして、女に対する気持ちの入れ方。

この子らとコミュニケーションとるのにもう縄はいらんっていうとこまでいくんちゃうかと思うねん

 

縄が大事なのではなく、相手とのコミュニケーションの確立の方が重要で、縄はそれを手助けする道具にすぎない、と。

繰り返しになりますが、こういったことは、実は濡木痴夢男や明智伝鬼、あるいはその他の縄の達人にとっては、無意識的にしろ、意識的にしろアタリマエのことです。

受け手との深い心のつながりを確立できているから、これらの人達は縄の達人なのです。

 

雪村春樹は、しかしながら、それを強く意識し、新しい枠組みで緊縛プレイを整理し、進化させたところが、他の人にはないところでした。

このように固まってきた自身のスタイルを、誰かに教えることで、さらに蒸留していきます。200お年代後半からは、親しい友人達にマンツーマンでレッスンをつけ始めます。恵比寿のオフィスでおこなわれていた「雪村教室」です。

 

さて、このような「相手の反応に合わせて即時的に仕掛けを返して反応を深めていく」方法を教えるというのは、実はとても難しいことなのです。

自分の催眠療法を理論化してはいけないと主張したミルトン・エリクソン。

 

メスマー美容術入門』シリーズでしばしば登場する、カリスマ催眠術師(というか、精神科医ですが)のミルトン・エリクソンに話を少し飛ばしましょう。

ミルトン・エリクソンにとっては、催眠術は患者との深いコミュニケーションをとれる状態を確立するための、ツールの1つでした。

そのために、患者の(そして自身の)トランス状態を深めていくわけですが、それには「患者の反応を注意深く観察し、即時的にそれに対応した、よりトランスを深める仕掛けを返していく」といった円環的な作業が重要であることを説いた人でもあります。

患者の反応は、その人、その場に応じて千差万別で、それに対する施術者の仕掛けも千差万別。まさに究極の個別化医療です。

したがって、定式化や理論化なんてできません!ということで、自らのスタイル(ちなみに、催眠誘導は、ミルトン・エリクソンにとってコミュニケーションを確立するための1つの方法でしか過ぎず、いつも催眠誘導を使っていたわけではありません。好奇心の強い人だったようなので、緊縛とかを知っていたら、喜んで緊縛を使っていたかもしれません)を理論化することを頑なに拒んだことで有名です。

困るのは、ミルトン・エリクソンのお弟子さんたちで、「あんたの尊敬するミルトン・エリクソン先生の理論とは、どんなもんなんですかいね?論文でてるんですか!教室ありますか!」と言われても、ミルトン・エリクソンが残したのは「理論化しません!」という強い意志と、膨大な数の症例報告。

ミルトン・エリクソン亡き後、お弟子さんたちが、その症例報告などを分析して、理論化するのですが、これまたお弟子さん達によって、まとめ方が千差万別。やっぱり理論化できないのです。というか、いろいろな見方で理論化できるのですが、どれも正しく、かつ、どれも不完全です。究極の個別化医療は、平均化して理論化するしかないのですが、それに基づき治療をしようとしても、たいがいは当てはまらない、という分けです。

同じようなことが雪村流の緊縛にも当てはまります。個別性を重視する雪村流の緊縛では、「受け手が、Aという反応を示した場合には、タイプIという次の縄をかけ、Bという反応なら、タイプIIの縄をかけ」なんてまとめていっても、100人の受け手は100の異なった反応を返しますし、同じ人でも、コンテクストが違えば異なる反応を返します。強引にまとめてみても、平均値しかでてこず、実践的にはあまり意味を持ちません。

よく「雪村流」を学びたい、ということで雪村春樹の縛りの手順を完璧にコピーしようとする人がいますが、これは雪村春樹が伝えたかったのと真逆。「縄というのは縛り方やなくして、女に対する気持ちの入れ方。」なのですが、では「気持ちの入れ方」はどうするのか、ということになるのでが、これまた難しい。

 

結局、ミルトン・エリクソンを理解するのは、お弟子さんの分析・理論化した「○×セオリー」を読むだけではだめで、同時に膨大なミルトン・エリクソンの症例集を読んだり、数少ないミルトン・エリクソンの施術記録を時間をかけて観て、各自「分かった!」と思うしかないのです。

「雪村流」を学ぶにも、『SM美容術入門17-縄をマスターする』で紹介した方法を総動員して、自分なりに「分かった!」と思うしかありません。

教則DVDがいくつか出ています。もう手に入らないのもありますが。

お弟子さんたちが教室を開いているので、そこで学ぶのも良いでしょう。海外のお弟子さんが大多数ですが、日本人や日本に棲んでいる海外の緊縛師のお弟子さんもいます。

雪村流はそもそも「型」を教えるものではありませんので、お弟子さん達の縄も、それぞれの個性に合わせて独自の進化を遂げています。

縛詩 BAKUSHI』(安原伸監督。2007年公開)

 

雪村春樹その人のスタイルを知るには、雪村が残した膨大なDVD作品を観ることも大切です。

また、雪村教室の様子を撮影した動画も大変勉強になりますが、唯一それを目に出来る市販品は、2007年に、雪村春樹の友人の安藤伸が監督した雪村春樹の記録映画『縛詩』という作品ぐらいです。

 

縛詩 BAKUSHI』のワンシーン。お弟子さんの飛室イヴにレッスンをつけている場面。

 

さて、症例報告と似た感じなのですが、2013年頃の雪村教室の様子が、FetLifeという、変態のための国際SNSの中の、雪村ファンクラブみたいなところ(Yukimuran Studies)に掲載されています。

なくなる二年前の記録ですので、ある意味、雪村流のたどりついた完成形についての教室ともいえます。

書いているのは、Ugoという日本人の方ので、このYukimuran Studiesを主催されている男性です。

雪村流は、主に海外に広まっていることを反映して、このUgoさんの書いた雪村教室の記録は、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、中国語と、なんとご5ケ国語に翻訳され、世界中の雪村ファンが教材として使っているようです。

大変興味深い内容なので、Salon de SMに転載してよいかと問合せしたところ、ご快諾をいただきましたので、何回かに分けて紹介したいと思います。

今回は、はUgoさんの初回のレッスンの様子。

文中Y先生とあるのが雪村春樹です。

理解しやすくするために、原文にはない画像をつけさせていただきました。

 

では、お楽しみ下さい。

 

 

FetLifeにある雪村ファンクラブ「Yukimuran Studies

 

第1回目のレッスン内容を紹介しましょう。

予備知識としてですが、私はある程度の緊縛技術はありました。全くの初心者ではありません。Y先生も、基本的なテクニックはあるという前提での、私への雪村流緊縛の紹介です。

1回目のモデルをつとめてくださったのは、私の縄友達のNaeちゃん。レッスンは、アシスタントとして紫月いろはさんが来て下さっていました。

1回目のレッスンで教わったのは、以下の項目です。今回、録音を聞き直してみると、当時は十分に理解できなかった、雪村流の真髄が、Y先生の言葉の随所にちりばめられており、この1回目だけでもかなりのことが勉強できるのが分かります。

  • 「縄尻についての説明」
  • 「縄遊戯をする空間についての説明」
  • 「後手縛りの練習」
  • 「首縄での縄遊び」
  • 「両脚閉脚から片脚開脚」
  • 「開放とハグ」
  • 「縄の『遊び』について」

それぞれY先生の言葉を引用しながら、私の勝手な解釈も補足説明としてつけていきます。

4人での15分ぐらいの雑談が終わり

「ほな、一から説明しますねぇ」
私は(直径)4mmの縄を使っています
なぜかというと、私は写真撮るから、日本人の女性の(細い)手首には(4mmの縄が)いいです


ここで、Y先生、Irohaさんをモデルに実演しながらの後手縛り説明に入ります。いわゆる基本の「縄1本後手縛り」です。
Y先生がIrohaさんの後ろに座り、それを正面から見るような位置に、私を座らせます。

縛詩 BAKUSHI』のワンシーン。お弟子さんでもある笠木忍。鴨居を想定した竹と布団が見える。

 ご存じのように雪村流は、小さな布団一枚の上で縛りをおこないます。その上には、高さ180センチのところにふと竹が横に走っており、これは、いわゆる古典的な日本家屋の「鴨居」を想定したものです。現代的なマンションには鴨居なんて存在しませんので、イタリア製の写真撮影照明用の器具で柱を2本作り、そこに太い竹を横に走らせています。
 この布団と180センチ高さの鴨居で囲まれる空間を舞台としてし、その前に観客がいると想定し、受け手は観客の方を向いて座ります。そして、縛り手は受け手の後ろに位置します。これが基本の配置です。
 レッスンを受け始めの最初の頃は、この「観客と舞台を想定したコンフィグレーション」というのものが、アマチュア緊縛を楽しむ私などに話して必要なのかと疑問に思っていました。私の場合には、パフォーマンスショーをするわけではなく、DVDを撮影するわけではありません。第三者の視点は必要ないわけです。したがて、あたかも舞台で演じるようなこの設定の必要性がわかりませんでした。しかしながら、あとで分かってきたのですが、雪村流では、縛り手と受け手の微妙な位置関係の変化からもたらされる心の変化を利用します。この位置関係、距離関係の変化を感じとるには、受け手、縛りの頭の中に安定した座標軸のようなものを作って置く方がよいのだと理解しています。そうすることで、絶対的な位置関係を感じ取りやすくなります。

縛り手が(受け手の)後ろに来るということは、ここまでにドラマがあるやないですか、本当は
ここまでが面白いところなんや
知らん男が縄もって後ろに来るということ自体が、この人にとっては大変なことや
(後ろに来た)気配を感じますよね。こっちも、(その心の動きを)感じます

 レッスンが進むに連れて分かってくるのですが、雪村流は、この最初の後手縛りが極めて重要です(後手縛りが肝となるのは、雪村流に限ったことではありませんが)。さらに言うならば、後手縛りの最初のアッタクが肝です。Y先生も「雪村流は、後手縛りが全てや」「雪村流はこの最初のアッタクが全てや」などと、しばしば言われていましたが、この「(後ろに来た)気配を感じますよね。こっちも、(その心の動きを)感じます」、というのは、「最初のアッタク」以前に、もう勝負がついている時もある、といった意味合いだと理解します。
 雪村流では、この最初の部分に異常なまでの気を使うわけですが、これは、ようするに、なんとか早い段階で、受け手との深い部分での心のコネクトを確立するか、に全精力を注いでいることだと考えています。
 Y先生風に言えば、「縄でのコミュニケーション」が取れる状態になる、ということなのでしょうが、受け手をトランス状態に誘導する、受け手とのコネクションを完了する、イメージ空間を共有する、いろいろな表現があると思います。とにかく、早くこの状態にもって行ければ、あとは、楽しく縄遊びができるわけです。早い場合には、それが受け手の後ろに座った段階で、起こるでしょうし、あるいは、最初のハグの時点、正座を崩した時点、手首を後ろに回した時点、手首を締めた時点、だいたいここらへんまでで、コネクトを完了させてしまうと、あとはとても楽に進みます。

そんで、後ろ手になるということは、それだけで私のいいなりになるわけですから、大変なことなわけですわ
こういう具合に一回抱きます
正座ずらした方が、気持ちが入りやすいので正座ずらします

この「正座をずらす」は、とても難しいです。私はまだ上手くできません。Y先生のセッションを見ていると、多くの受け手が、この正座をずらした時点で、落ちているのが分かります。絶妙の間合いです。

ここで、後ろ手に手首をもってくるタイミングを計ります
相手に支配していくという信号を送りながら、後ろ手にもっていくタイミングを計ります

手首を思いきり下に下げる雪村春樹晩期の後手縛り。『雪村春樹 淫縛ポーズ集 1』より。

 

 雪村流レッスンでは、何かきれいで難しい縛り方を教えているのかな、と想像する人も多いかもしれませんが、基本的にこの後手縛りと、後で出てくる獣縛りを中心に、ひたすらこれらを繰り返して練習するのみです。
 最初の実演では、ここで、しばし説明なしで、一気に「縄1本後手縛り」を完成させ、
これが縄尻です。
と縄尻の説明に入ります。
(縄尻を)下へ引きます
引いて責めたり、引いて愛撫したり、相手に信号を伝えます。すると、何らかの信号が相手からもあります。それを感じ取ってください。
私の縄はこの縄尻が大切なんです。

 私が、最初のレッスンで一番印象に残ったのは、この「縄尻」の考え方でした。「縄尻」は、一般的には2本に折った縄の、開放末端からなる一方の端(もう一方は「縄頭」)といった意味しか持ちませんが、Y先生、つまり雪村流では、受け手とのコミュニケーションを取る縄といった、「機能的」な定義を使っている点に大変興味をもったのを覚えています。
 受け手とのコミュニケーションを取りやすい縄の位置というのも、自ずと経験的に収斂してきているらしく、「縄尻」を取るのは、「手首」「足首」「胸」「首」「髪」がよい、すなわち、「手首」「足首」「胸」「首」「髪」部分にかかった縄を通じての感情のやりとりが、もっと効果的だということです。
 ここらへんの説明を聞く段階になって、「あれ、この人、私が想像していた以上に凄い人なのかもしれない」と私は、雪村世界に引きこまれていくわけです。

 ここから、後手縛りの各ステップの詳しい説明に入ります。テキストだけでは、分かりにくいので、YouTubeや、あるいは、『雪村春樹の縛り方講座 ~情愛縛りで楽しむ~』の動画を見ながら、読み進んでください。

この人の今日の縄の強さはこの強さなんです

 Y先生の晩年のTwitに「縄に荷がかかるのを感じてから縛らんと相手に馴染まん縄になる」というのがあります。この「荷を感じながら」縛るというのが、この後手縛りの胸縄のかけ方で重要となります。各ステップでしっかりと相手の反動を受け止めながら、その日の受け手の気分を感じ取っていきます。

ここで相手との力加減を調整するのに、今絞っています
これは、胸縄2回回したあとに、手首に戻す時のしぼり方のところです。テクストだけは分かりにくいので、動画で想像してください。

手首に近い方が縄尻のコミュニケーションはしやすいです
手首、足首、首、髪の毛が縄尻をとる部分
3,4つ縄尻ができるので、あやつり人形みたいにこれらを交互に引いてコミニュケーションを楽しみます

ここは、上に述べた縄尻の考え方の説明です。「胸」を縄尻ポイントにいれるかどうか曖昧なのですが、後のレッスンで出てくる、胸縄から支点に走らせた縄を、Y先生はしばしば縄尻とも読んでいました。やや混乱のある部分です。

引き方により気持ちが違います

と言って、Y先生は、縄を引くときの縄の持ち方をいろいろと変えて、それで伝わる感情が変わることを示します。「ほんまかいな」と一瞬思いますが、それが本当であることは、実際に自分で試してみるとすぐに分かりました。まあ、ここらへんに来ると、私は完全にY先生の虜になっておりました。

次に、後手縛りの手首の位置についての説明に入ります。
お気づきのように、雪村流の後手縛りは、思いきり手を下におろした位置で縛ります。私が習った晩年の2年間は、これが徹底していたようで、ひつこいぐらい何回も手首を下げるように指示されています。おそらくこれは、晩年に特にそうなったようで、昔からのお付き合いのある人は、昔は高い位置での後手縛りも多用していたと証言しています。

「上げると気が抜けてしまいます」
「捕縛の高手は拘束のための縛りで、気が入りません。これではプレイがしにくいです」
「高い位置での後手は責めの縄。決めるときに使います。」
「私の縄は愛撫から始まりますので、低い位置から始めます」
「責めから始まり責めで終わると、プレイの幅が狭くなります」
「責め縄は肉体がギブアップするかもしれないけど、気持ちは反発するかもしれん」
「それに反して、愛撫の縄は難儀な縄です」

続いて、後手縛りで「気がぬける危険性」のあるポイントを教えてくれます。

「手首が体から離れると気が抜けます。」
手首を後ろに回すときは、体から絶対はなさない。手首は下にひっぱるように。
「雪村流の極意は一つだけ。縛る時に動かさない。」

 Y先生は、「雪村流は○○だけや」という表現をしばしば用い、そのつど○○に入る内容が異なりますが、それでもだいたい決まっています。「気を抜かさない」というのも極意の1つです。そして、この後手縛りでは、「気が抜けてしまう」ポイントがいくつもあるので、その意味でも「雪村流は後手縛りだけや」というのは間違いありません。したがって、雪村流レッスンでは、繰り返し、繰り返し後手縛りの練習をおこないます。

さて、ここまでIrohaさんをモデルに、Y先生が見本を見せてくれていました。ここから、私とNaeちゃんの演習の開始です。

縄遊戯 雪村流縛り方講座』より。『SM美容術入門33-縄の2つの方向』も参照されたし。

 まずは、首縄の練習です。
「縄尻を感覚的に学ぶには、首縄使うのがええです」

と、Naeちゃんにシンプルな首縄をまずかけます。
そして、いろいろな縄の引き方で、彼女に伝わる感情の違いがあることを体験します。
「縄を引く位置が低い方が屈辱的な気持ちになります」
「物体に近い方が屈辱的になります」
と、縄を一度、金属製のポールにひっかけて、引っ張るようにと指示をします。
「このようなポールの低いところに、縄を短くしてつないでしまうと、彼女はとても屈辱的な感情になります」
いろいろな首縄の引き方をためすように指示され、練習します。
「その縄尻を私にわたしてください」
「このように縄をバトンタッチされると気分が大きく変わります」
「縄の行き先で気持ちが変わります」
「受け手の表情や気持ちの変化を読み取るのが重要です」
「相手のボキャブラリーを出せれば縄が進みます」

こういった感じで、縄尻を用いた感情の誘導の仕方、感情の読みとりの仕方を練習するようにと教わりました。

さて、次は、Y先生がNaeちゃんを後手縛りにかけます。

先ほどは省略していた後手縛りの細かい注意点も加わります。

手首を後ろに回して、最初のひと縄をかけた時点で、ぎゅっと一度きつく手首を縛ります。
このステップをY先生は「引導を渡す」と表現します。つまり、支配の宣言です。後々分かりますが、このステップは、確かに極めて受け手に強いメッセージを送ることのできる重要なステップです。

そのまま、きつく縛っては、手首を痛めてしまうので、「引導を渡し」たあとは、気づかれないようにすっと力を抜き、次に進みます。

「縛ることだけ考えるんでなくて、ひとなわひとなわ、この人の今感じていることを共有しながら、そのリズムで縛ると、縄が面白くなるし、上手になる」

さて、ここでいよいよ私がNaeちゃんを相手に後手縛りの演習です。

ポイントポイントに注意の指示が出ます。
腕の後ろからの取り方。
体につけて、下に引きながら後ろに。
後ろで手首を重ねると、次にちょんと体を前にやる。
最初の腕にかかる縄は、二の腕の真ん中に。
自分の手も縄だと思い、左手で迎えにいくように、右手の縄を受け取る。
荷を感じながら、胸縄を完成し、最終的な縛りの強さを、手首に返すときに決定します。
手首で一結びして、縄尻を完成。
そして、縄尻を「真下に引」いて、後手縛りの完成となります。

ここで、再びブレイク。
いろいろと雑談をしてくつろぎます。

「はじめは縛ることばかり気がいきますが、次第にコミュニケーションできるようになります」
「オレの縄は地味やからな〜」「吊ったりはったりせーへんし」

ブレイク後に、再び後手縛りの練習をし、そのまま横に寝かして、「片足首掛け縛り」で両足首を縛り、手首と足首の二箇所に縄尻を作ります。
この2つの縄尻を交互に引きながら、コミュニケーションの取り方の練習。

「片足首掛け縛り」「片手首掛け縛り」というのは、まず片方の手首、足首だけに縄を結んでから、次に両手首、両足首を縛っていく、やや独特な縛り方です。相手が抵抗している状態では、一挙に両手首、両足首を縛るのは難しいか、という背景があります。
両足首の縛りに関して、
「開脚よりも恥ずかしい」
「一番恥ずかしい」
というY先生の説明。
その時は、そうなのかな〜なんて思っていましたが、経験を積むにつれて、受け手さんからは、独特の被虐感があると教えられ、現在ではなるほどなと納得しております。

続いて、両足首縛りを途中まで解き、片足首縛りのみを残し、「片脚開脚縛り」の練習に入ります。
ここでも、普通なら大きく脚を開くと恥ずかしいだろうなと考えるのですが、Y先生は、
「少しあげた状態の方がずっと恥ずかしい」と教えてくれます。
ここらへんの考え方は、雪村流の真髄で、受け手にイメージ力を喚起できる縛りを大切にしています。

「縛師はあんまり動いたらあかんで。」
「左手で膝の裏をもって、前に上げてあげる」
「縄尻もって、言葉責め」
「体が伸びるとコントロールしにくい。まるめてコントロール」

と開脚縛りの練習が終わり、
「ほな、開放しましょか」の指示。

あとあと開放についてもいろいろ教わるのですが、とりあえず初日は、寝ている受け手の起こし方。
「一度、前にやって、ぐっと引き寄せながら起こします」
これができるのは、何回かレッスンが進んでからとなります。

「相手の気持ちのコントロールができるようになると、こちらの気持ちは相手に分かるようになるので、気は抜けません」

これは今だから分かる重要な指摘だと思います。
受け手とのコネクトが確立すると、相手の気持ちがよく分かるようになりますが、こちらの気持ちもよい一層、受け手に分かるようになってしまいます。なので、ちょっとでも気を抜くと、受け手は一挙に冷めてしまうので、注意しなさいという教えです。

 前手引き上げ縛りの最初のステップ。『雪村春樹 淫縛ポーズ集 1』より。

ここまででも、かなり内容の濃い授業ですが、再度のブレイクの後に、「前手引き上げ縛り」での縄の『遊び』つまり「余裕」の練習となります。

Naeちゃんを後ろからハグし、両手首を体の前で前手二巻き縛りして、支点にひっかけ、両手を次第に上に引き上げていきます。
引き上げる高さで、受け手の感情がどう変わるかを実際に体験しながら学びます。
「ちょっと余裕あるところで止めるとリアクションしやすい。ピンとはると責めになります」
まずは、ちょっと余裕のあるところで吊り上げを止め、受け手に遊ぶ余裕を与えて、イメージを膨らませます。
最後も、いっぱいいっぱい思いきり引っ張り上げるとしても、そのあと少し力を抜いて弱めた方が、ダメージが少ないだろうという解説です。

以上、予定より長く、2時間半で教わったことです。かなり濃い内容ですが、お分かりのように、縄の型としては、極めてシンプルな、慣れている人なら10分もあれば覚えてしまうようなものです。雪村流で学ぶのは型ではなく、受け手との縄を使ったコミュニケーションの方法なのですが、これが難しいんです。何回も何回も同じ練習を繰り返すことで、少しずつその奥義が体得できるようになってきます。

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連載『SM美容術入門』