『メスマー美容術入門27-脳に響く』『メスマー美容術入門28-心で治す』に続く『ASMR』シリーズ完結編です。
『ASMR』とは「AUTONOMOUS SENSORY MERIDIAN RESPONSE=自律感覚絶頂反応」のことでした。
もともとはSNSに集った人達が、耳のそばで「紙をクチュクチュ」したり「ローションを手でネチャネチャ」させたりしていると、なんだかしらないけど、「ゾワゾワ」といった快感が神経に走り、「脳イキ」のようになるという共通経験を話している中で、これを『ASMR』と呼びましょうということで広まりだしたネット語です。
広まるにるれて、解釈もどんどん広がり、エロからヒーリング、はては、代替医療の可能性まででてきた、といのが『メスマー美容術入門27-脳に響く』『メスマー美容術入門28-心で治す』でのお話しでしたね。
『ASMRによる医療ロール・プレイ』 てのは、
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こういうもので、偽のお医者さんが、「どうしたんですか〜、ベロ見せてください〜」
って感じでお医者さんごっごする訳です。
しかも、動画ですので一方向のコミュニケーション。
「あ、先生、そこ変な感じがします」なんて言っても、動画の偽お医者さんは反応してくれません。
「そんなもので病気が治るわけないだろ!トンデモ科学!悪徳医療!」
と考えるのが普通。
でも、(もちろん殆どの病気は治らないのでしょうが)、治ってしまう病気もあると話題になっているのも事実。
「そんなの、 単なるプラセボ効果!ASMRが効いているのではないの!!」
そう、プラセボ効果です。クスリ成分も治療行為もなく、お医者さんゴッコだけで治ってしまうのです。
『プラセボ』効果は『メスマー美容術入門14-信じる力』などで説明しました。
「良くも、悪くも、あなたの思い通りになるよ」ってのが、『プラセボ』効果。
薬剤師のエミール・クーエ(EMILE COUE、1857-1926)が「これ、最近開発された新しいお薬で、凄くよく効くんです」って、偽薬を患者さんに渡したところ、
あらま不思議で効いてしまいました、ってとこらへんからクーエは「自己暗示の力」の凄さを知ることになります。
いわゆる医療の主流派の人たちにとっては、この『プラセボ』効果は、やっかいもの扱い。
現代医療の基本は、効果のある薬や施術で問題のある部位を介入的にいじることで、さまざまな病気を治療することが前提となるわけですから、効果がないことが分かっている薬や施術で病気が治ったとしても、困ってしまう訳です。
『ハッピーチンチンホルモン』でも紹介した「治験」というお金と時間のかかる試験をして期待した結果を出さないと、「効果がある」とは認められません。
ですので、こういった治験を経ていない民間療法や、サプリ療法などは、医療の主流派の人たちは、「効いたとみえてもプラセボ効果だろう」と思っている人が大多数でしょう。
『ASMRによる医療ロール・プレイ』に戻りますと、こんな動画だけで病気が治る訳がないのに、どうしてJAMAといったお堅い医学雑誌が代替医療の可能性として興味をもっているのでしょうか?
医療の主流派ではない、一部の人達は、『プラセボ』効果を積極的に利用しようとしていることは既にご紹介したとおり。
何で治るのかといえば、それは「自分で治しちゃう」からなんでしょう。
「こころ」の問題を扱っている人達は、この「生物のもつ勝手に治ってしまう力」というのを重要視する人が多いです。「自己組織化」「オートポイエーシス」その他いろいろな呼び方がされていますが、生物は、なぜか分からないけど、そのうち「あんじょう、ようなってしまう」性質があるとする考え方です。
医療の主流派の人たちは、いわゆるバリバリの直線的な因果関係の信奉者ですので、このような「なぜか分からないけど」といったいいかげんな態度は受け入れられません。かならず、「○×が調子悪くなったので、△□の病気になった。したがって○×をどうのこうのして、病気を治します」といった直線的な考え方しかしません。
しばしば登場するミルトン・エリクソンは、この「生物のもつ勝手に治ってしまう力」を引き出すことに天才的な才能があったようです。
『メスマー美容術入門08-心の多様性』で紹介した例では、エリクソンがレイノー病という厄介な病気で長年苦しむ患者に対して、「わたしはレイノー病の治療法についてはよく知りません。あなた自身の『からだの学び』があなたを治療するでしょう」と、患者に自分でトランスンに入る(自己催眠)方法を教えるだけで治療しています。患者が自ら治っていくのをお手伝いする、といったスタイルの治療法です。
彼のお弟子さん達の一部は、この「生物のもつ勝手に治ってしまう力」を「レジリエンス」という言葉で言い表しています(ダン・ショート他『ミルトン・エリクソン心理療法: 〈レジリエンス〉を育てる』など)。生物が本来もつ力強い安定した状態に戻ることができる力のことです。
この「レジリエンス」の能力を引き出すために、クーエは「自己暗示」を重視しましたし、ミルトン・エリクソンなどは、しばしば催眠誘導を用いています。自己催眠、瞑想や毎度フルネス、ヨガなども同じ路線で、自分で「レジリエンス」の能力を引き出そうとするものでしょう。
ASMRの「耳のそばで紙をクチュクチュ」したり「耳のそばでローションを手でネチャネチャ」というのは、催眠をやっている人達にとっては、明らかに催眠誘導の手法です。
感覚を集中させ、鋭敏化させることで、トランス状態に容易に入っていきます。
いわゆる眠ったような催眠状態に持ち込むものではありませんが(そうしようと思えばそうできるでしょうが)、トランス状態に入れる、あるいは一人で入るには、「耳のそばで紙をクチュクチュ」したり「耳のそばでローションを手でネチャネチャ」などは効果的な方法と考えてよいでしょう。同じように、ASMR風の動画では、光を凝視させたり、小さな声で囁いたり、頭皮を刺激したりと、催眠誘導でよく使われる技法が用いられています。
深いトランス状態に入ると、なぜかわかりませんが、こころもからだもスッキリして、調子が良くなります。これが 「レジリエンス」の能力で、本来の調子の良い状態にもどったことに相当するのでしょう。ASMR動画は、一人でトランス状態に入る手助けをしてくれるヘルパーといえます。
ASMR動画が「VR」や「バイノーラル録音」などといった感覚に関するテクノロジーと結びついているのも面白いです。
『メスマー美容術入門14-信じる力』で紹介したジョー・マーチャントの「病は気から」を科学する』では、催眠療法の新しい試みとして、VRを用いた例が紹介されていました。時間と催眠術師の個人的な技術に依存せざるを得ない催眠療法を平均化、安価にするために、VRを患者に見せて同じような効果を得ようとする試みです。
ひょっとすると、19世紀をピークに廃れてしまった催眠療法がVRや、あるいはAIといった新しいテクノロジーを取り入れることで、新たな展開をみせるかもしれないですね。今後の展開が楽しみです。
さて、まとめますと、
- 『ASMR』では、特に「音」「光」「皮膚感覚」の刺激を巧みに使った、これまでにはあまりなかったトランス誘導法のいくつかが提案され、それなりに成熟した技法へと成長している。
- これらのASMR流トランス誘導法は、「エロ」「癒し」ジャンルで独自の使われ方をして、さらに発展しつつある。
- 特に「VR」や「バイノーラル録音」などのテクノロジーとの組み合わせで、その誘導能力の威力が増す。
- トランス誘導から引き出される「レジリエンス」能力を利用した新しい代替医療の『ASMRによる医療ロール・プレイ』 に注目があつまりつつある。
といったところでしょうか。
YouTubeで一方向性のコミュニケーションではだめなので、ちゃんと双方向のコミュニケーションができるASMRをやりましょおう、というのがこの「ASMR SPA」。こうなると、既にある癒やし系の催眠療法の、トランス誘導法のあつに「クチュクチュ音」を使っているのとおなじことになり、なんだかグルグル回ってややこしくなります。
こちらはASMRマッサージ。整体やマッサージもトランス誘導と密接な関係があるのは明らかですので、ここでは、積極的にASMR系のトランス誘導技術をマッサージに明示的に取り入れている、ということになるのでしょう。
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連載『メスマー美容術入門』