Q: そもそも「催眠術」ってなんなんですか?
A:「催眠状態」に人をもっていく「方法」が「催眠術」なのと違いますでしょうか?
Q: なるほど。では、「催眠状態」ってどんな状態。
A: 眠った状態に似た状態で・・・意識がなくて・・・催眠術師の命令を何でもきいてしまう状態でしょうか?
Q: はあ。では、催眠術師は、どうやって催眠状態に人をもっていくのですか?
A: 目の前で、懐中時計を左右に振ったりして、「眠くな〜れ」とか命令するのとちがいますでしょうか?
催眠術が「怪しさ」をかもし出す原因の1つに、定義があいまいなことがあります。
ようするに、いろんな人がいろな定義をしてるんです。
なんで、いろんな人がいろんな定義するかというと、ようするに催眠現象のこと、つまり心のしくみのことが、未だにまだよく分かっていないからです。
いろんな人がいろんな定義をしている状況では、「なんか怪しいな〜」と普通の人が思っちゃうのは当然です。
「催眠術」は人を「催眠状態」に導く術(=方法)で、それを使う人が「催眠術師」、て定義は、まあよいと思います。
「催眠術師」が、催眠にかかっている人を自由自在にあやつる・・例えば「目が開かない」とか「あなたは猫になった」とか「あなたの憧れの人が横にいます」ってのもだいたいいいでしょう(自由自在にはいきませんけどね)。
「目が開かない」というのは、「暗示」です。「暗示を入れる」とかいいます。
ただし、「暗示」の本来の意味は、「ほのめかし」ですので、「目が開かない」というのは、「命令」「指示」と言う方がより正確なのですが、まあ「暗示」で許してください。
「催眠状態」と「暗示」は分けて考える場合が多いです。
つまり、懐中時計を目の前で振りながら「催眠状態」に誘導して、催眠状態の人の耳元で、「あなたは、次に目を覚ますと、不思議なことに、猫になっていま〜す」とかつぶやいて「暗示」を入れます。
「いいですか〜、1,2,3。はい目を覚まして!」
「にゃ〜ん♥」
てのが、ショー催眠などでよく見る光景です。
目を覚ました状態が、催眠状態かどうかになると、人により定義が分かれてきます。「催眠状態」が「眠ったような状態」だとすると、目を覚ましているのに、催眠状態ってのはおかしですよね。
「いや、覚めてるようでいて、催眠状態なんだ」って、いう人もでてきます。
とにかく、猫になっている訳ですから、普通の状態ではないですよね。
「催眠状態」に入ると、「被暗示性が高まる」といわれています。
なので、催眠術師は、催眠誘導してから、暗示を入れます。
ただし、催眠状態に入っていないと暗示がかからにかと言えば、そんなことは全くありません。
『メスマー美容術入門04-催眠術全盛期』でも紹介しましたように、エミール・クーエなんかは、かなり早い段階から催眠誘導をつかわないで、暗示だけで十分と考えていました。
確かに、「あなたは猫になる〜」って暗示を通すには、「被暗示性」という暗示の入りやすさを高めておく必要があり、それには「催眠状態」に誘導するのが手っ取り早いと考えられています。
しかしながら、クーエの場合は、ショーが目的ではなく、いろいろな体と心の不調の調節を目的としていた、今でいうところの心理療法家だった点を思い出してください。
エミール・クーエ(EMILE COUE、1857-1926)
「催眠術」と聞くと、人を操る怪しげな魔術師、ってイメージがありますが、今まで紹介したメスマーから始まり、エリクソンまで、すべてお医者さんや療法家で、治療としての催眠術の可能性に目をつけた人々です。
治療のために、クライエントを猫にする必要があるのかというと、そうではありません。
話がそれましたが、暗示を入れるには、催眠状態に導入する必要は必ずしも必要ありません。
フロイトなんかは、早々と「催眠なんて役にたたん」と催眠術を放棄したのは、『メスマー美容術入門05-催眠術終わる』で紹介した通りです。
フロイトは、クライエントをリラックスさせ、自由に連想させて、ヒステリーの治療をしていたわけで、ここには「痛いの痛いの、飛んでいけ〜」って感じの暗示もありません。催眠状態にもしないし、暗示も入れません。
なので、「フロイトは催眠術を放棄した」って表現は正しいのですが、一方で、フロイトがやったことは「催眠術と何が違うねん!」という意見があります。
「自由連想法」ってのは、椅子にリラックスして座らせて、心を落ち着けるだけ。寝てるような状態にはなりませんので、「催眠状態」に入っているわけではないでしょう。
では、普通の心の状態かというと、そうではないでしょう。
クライエントは、フロイトのクリニックにやってきて、自分の家とは様子の違う診察室の中で寝椅子に座らさせ、後ろには偉いお医者さんらしいフロイト先生が、椅子に座っていて、何やら探ろうとしている・・・これだけで、普通と違う心の状態になってしまいますよね。
「催眠状態」でないなら、では、どんな心の状態になっているのでしょうか?こういう時に、オールマイティーに使える便利な言葉が「トランス状態」って言葉です。
「あー、それはトランス状態に入ってんだよ」と言ってしまえば、なんとなくOKな便利な言葉です。今日はそれについて紹介しましょう。
「トランス」って聞いて、何を思い浮かべます?
マリファナとか吸って、ラリっている状態?
白目むいて失神してしまうトランスセックス?
キツネが憑依(ひょうい)して、訳のわからないことを喋りだす状態?
実は「トランス状態」てのも「催眠状態」と同じく、人によって定義がバラバラなので、怪しいんです。
「なんだ〜」と思われるかもしれませんが、「催眠状態」が「トランス状態」の一形態ということでは、おおかたの人は納得します。広い意味で使いたいときには、「トランス状態」は便利です。
「トランス状態」と似た言葉で「変成意識状態」てのもあります。
こちらも同じように定義がはっきりしてないので、怪しいのですが(ようするに、心の分野の研究は定量的な観察がしにくいので、定義しにくく、どうしても怪しさが残るんです)、だいたい「トランス状態」=「変成意識状態」と考えてよいかと思います。
(「いや、変成意識状態はちゃんと学会で定義されている!」とお怒りになる方もたくさんいらっしゃるでしょうが、所詮、学会内・分野内での取り決めの話。古典物理学や数学のように、分野外の人も納得させるような力強さはありません。)
で、トランス状態」≃「変成意識状態」ってのは普通でない意識の状態。
なので、「もの凄く」範囲が広いです。
恋愛でボー、としてるときもそうだし、ゲームに夢中になっている時もそうだし、勉強に集中している時もそうだし、箸がたおれて笑っているときもそうだし、セックスで気持ち良くて頭が白くなっている時もそうだし、仕事帰りに、気がついたら勝手に電車乗って部屋についていた、ってのもそうだし、怖い上司に怒鳴られて体が動かなくなってしまった時もそうだし、お化けの話で体が震えているときもそうだし、実際に死んでもいない芝居の心中話に涙ボロボロになっている時もそうだし、ダンスしてレイヴ状態になっている時もそうだし、そして、催眠術で催眠状態になった時もそうです。
その他にもいろいろあり、「いったい変成意識状態でない意識状態ってあるのか!」って考えると、われわれは、多かれ少なかれ、いつでも何らかの変成意識状態にいるのかもしれません。
このように、ますます怪しい「トランス状態」=「変成意識状態」なのですが、使い勝手としては、定義が広いだけに使い易いです。
ミルトン・エリクソン(MILTON H. ERICKSON, 1901-1980)
『メスマー美容術入門06-カリスマ登場』で紹介した、ミルトン・エリクソン、およびその影響を受けたいろいろな学派は、 「催眠状態」の定義を拡張して「トランス」という言葉を用いており、これがとてもいい感じで使えます。
フロイトの「自由連想」での 、椅子にリラックスして座らせて、心を集中させる、ってのも「トランス状態」への誘導にほかなりません。なので、拡張した「催眠」の定義では、確かに「フロイトのやってることも催眠術と変わらんやん」てことになります。
サロンさんがしばしば使っているSMプレイ中の「スイッチが入る」「イメージ空間に入る」なんてのも、ようするに「トランス状態」に入ることに他なりません。
でも、「トランス状態」が、上に述べたようにあらゆる心の状態を言い表すものだとすると、トランス状態に入ったからといって、「それがどうした」になってしまいますよね。
ミルトン・エリクソンの催眠で、サロンさんがとても気に入っているのは、施術者とクライエントが、二人ともトランス状態に入るところです。これは、『SM美容術入門24-縄で心をコネクト』や『SM美容術入門25-縄空間の制御者に』で説明していた、SMプレイの本質部分と、とても親和性があります。
次回は、この点に関してもう少し掘り下げてみましょう。
『耳学問のすゝめ〜その1〜』でも紹介した代々木忠監督は、セックスでのトランス誘導を早くから重視して、作品作りにも活かしています。声だけでトランス誘導しちゃいます。
お祭りなんてのも、典型的な「みんなでトランスに入りましょ〜」ってイベント。
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