ニュースによりますと、福岡大学医学部が女性の「潮」が尿とは異なることを裏付けることに成功したそうです。

 

 

 

 

2014年6月9日ですから、少し前のことになりますが、ネット上のニュースに気になるタイトルが。

  『福岡大学医学部 女性の「潮」が尿とは異なることを裏付けた』

おお、なんかすごい発見があったのかな・・

ネットニュースのソースは「Newsポストセブン」・・なので、週刊ポストのネット版みたいな感じかな?サンケイ系です。

その内容はを引用しますと、

 男たちが居酒屋でする定番の下ネタが「潮吹き」にまつわるものだ。
 この魅惑の液体について、世界中の男たちが議論を闘わせてきたはずだが、医学界ではすでに結論が出ていると言っていい。
 医学界で最初に「潮吹き現象」に言及したのは、ドイツ人医師のエルンスト・グレーフェンベルク。彼はGスポットの発見者として名高く、「Gスポットを刺激すると“ある液体”が膣口周囲から飛び散る現象」として医学界に公表した。
 以来、愛液がほとばしったとする「愛液説」、膣ではなく尿道から出るとする「尿失禁説」など、潮吹きのメカニズムには諸説が唱えられてきた。最新研究では「女性の射精説」。
 倉敷成人病センター泌尿器科の佐古智子医師が説明する。
「現在では潮は尿道から射出することが判明しており、『愛液説』は退けられています。しかも、潮は尿道から出る液にもかかわらず、尿とは成分が異なるという報告があります」
 2007年には、福岡大学医学部法医学教室が、潮は尿道から噴出することを確認しつつ、液が尿とは異なることを裏付けた。
「潮はサラサラで無臭。成分分析では、潮に尿の成分は混ざっているものの、尿そのものではなく、むしろ汗に近いと考えられる。このことから、無臭でほぼ無色の体液が尿道口から噴射したのが潮である」
 佐古医師は、この「尿ではなく汗に近い液体」の実態を説明してくれた。
「女性にも男性の前立腺に相当する組織があり、そこから分泌された液が、男性の射精に近い形で放出される可能性があります」
 潮からは、男性の前立腺から分泌する液と同じ酵素が発見されていることから、「女性前立腺(スキーン腺)=潮」という説が述べられるに至った。佐古医師がさらに言及する。
「女性には男性の精のような器官がなく、液体を溜められません。潮は物理的な性的刺激を受けた際に多量に産出され、蓄積されることなくそのまま射出されると理解すべきでしょう」
※週刊ポスト2014年6月20日号

 ふーむ。週刊ポスト6月20日号の予告編というか、広告みたいなものなのですが、タイトルに謳っている「福岡大学医学部」の発見が、「2007年には、福岡大学医学部が・・」と書いているので、これが本当なら、7年も前の発表である。そんな昔の発表をわざわざ今になって、ヘッドラインニュースのタイトルに持ってくるのもおかしい。誤植かな?なんて、思わず週刊ポストを買ってしまいました。週刊ポストなんて買うの、20年ぶりぐらい?

うーん、扇情的な記事タイトルが一杯ですね。

右下に書いている「死ぬまでSEX」ってのが、今回の潮記事が載っている特集で、p150-159の10ページぶちぬき企画なんです。

「大反響シリーズ 総集編第3弾」ということなので、最近、連続して死ぬまでSEX」の記事を特集しているのでしょうね。

「死ぬまでSEX 女性器の科学 絶頂の神秘」ということで、7つの記事から構成されています。

  1. 構造:あながた見ているクリトリスは氷山の一角
  2. 過程:「オーガズムへの4段階」を知れば女の本気と演技が完全に見抜ける
  3. 噴射:これが「潮吹き」ファイナルアンサー
  4. 医学書:ニッポンの女性器8330個でわかった「ヴァギナ」の進化
  5. 技術:性技講師たちが教えている「イカせる4体位」
  6. 体験談:「性生活報告」が伝えた「凄い女性器との出会い」
  7. 仰天レポート:私が出会った「面白いくらいにすぐイク女」

 なかなか面白そうでしょ。まだ売っていたら、買ってみれば?

あるいは、サロンさんのコラムでも同じようなことが読めますよ。

例えば、「鳥は菱形の庭に降りる・・」では「あながた見ているクリトリスは氷山の一角」と同内容のことが書いていますし、「スキーン!」「世界しおふき物語」では、潮のことについて書いています。

 

で、この週刊ポストの「死ぬまでSEX 女性器の科学 絶頂の神秘」総特集の「これが『潮吹き』ファイナルアンサー」を見てみましょう。

イントロには「Gスポットの発見者として名高いグレフェンベルクが最初に『潮吹き現象』に言及した。」とあります。「Gスポット大戦」でも書きましたが、グレフェンベルクの1982年の論文には、Gスポットのことは何も書かれておらず、ただ、尿道に異物を挿入して快感を得ている女性の症例報告に過ぎません。ただし、「潮吹き現象」に言及しているのは正しく、「潮吹き現象」を学会で最初に報告したのは、グレフェンベルクかもしれませんね。

続いて、潮の本体については、「愛液説」や「尿失禁説」などがあったが、最近は「女性の射精説」に落ち着いて来た、とあります。ここで、倉敷成人病センター泌尿器科の佐古智子医師が登場し(と言っても、インタビューの引用という形ですが)、「現在では潮は尿道から射出することが判明しており、愛液説は退けられています。しかも、潮は尿道から出る液にもかかわらず、尿とは成分が異なるという報告があります」と続きます。

この、佐古智子医師という方、専門は泌尿器科の外科の先生らしく、週刊ポストには、2011年頃からしばしば登場しているようです。ひょっとすると、この6月20日号の記事も、昔の取材記事を使い回ししているだけかもしれませんね。

ここで、「2007年には、福岡大学医学部法医学教室が、尿は尿道から噴出することを確認しつつ、液が尿とは異なることを裏付けた」と記事が続きます。佐古智子医師の発言のようにも取れますし、週刊ポストの独自の取材のようでもあります。

やはり2007年なのですね。

尿ではなく汗に近い液体」「前立腺に相当する組織があり」「潮からは、男性の前立腺から分泌する液と同じ酵素が発見されていることから、『女性前立腺(スキーン腺)=潮』という説が述べられるに至った。

そうですよね。前立腺は男性に特有と考えられていたのですが、スキーン博士が見つけた女性の尿道の周りに存在する『スキーン腺』が調べれば調べるほど前立腺に近い組織学的な性質を持っているのです。なので、スキーン腺』を『女性の前立腺』と呼びましょう、という提案も出されています(文献1)。

このスキーン腺』からは分泌液が出てきます。それが『潮』の主成分なのか、あるいは、あくまで一部の成分であって、他の分泌液と混じったものが『潮の本体』なのか、実はまだよく分かっていないようです。

Gスポット大戦』のコラムでも紹介したように、Gスポットがあるのかないのかについても、未だに議論が続いているように、『潮の本体』についても、永遠と議論が続いているようです。女性の体は、まだよく分かっていないことがたくさんあるのです。

スキーン腺』というのは、その発達に個人差があるようで、週刊ポストが「10年に3000人の女性を対象に行ったアンケート調査でも、<潮吹きを経験した>は22.4%にすぎなかった。」とあります。佐古智子医師はこれを補足する形で、(潮吹き体験は)10-69%とデータに幅」があり、「スキーン腺の発達は個人差が顕著」と紹介します。

 そもそもスキーン腺』というのは、体の中にあるので、なかなかそのイメージがつかみにくいですよね。

 

A, T, G, C・・といろいろあります」や「菱形を貫く3本のチューブ」でもおなじみのこの、オマンコの模式図で説明しますと、 3本のチューブの一番上に位置する「尿道」(青色のチューブ)の周辺で、特に尿道口、すなわちオシッコの出口近くに、スキーン腺』が点在するようです。例えば文献2の研究では、このあたりを顕微鏡で大きく拡大して観察すると、

 こんな風に見えるんだ、って報告しています。「U」が尿道のチューブで「P」がスキーン腺』の液体の溜まっている空間かな・・回りの茶色の部分が、その空間を作っている細胞なんです。

なんか、これじゃよく分かんないですね。同じ論文に、頑張って3Dに再構築したイラストが載っています。

 

ここで、左の青色部分は、膣の壁。右の緑の部分は尿道。そして尿道の出口(下)附近に、ちょこちょこと赤いのがついていますが、これが スキーン腺』なんです。

スキーン腺』には、恐らく潮の成分となる液体が入っているのですが、そこから細い管が尿道や尿道の出口の脇につながっていてるらしいです。「潮」が「尿道を一度通ってから、尿道から吹き出る」のか「尿道口の両脇のスキーン腺の出口から吹き出る」のかよく分かっていないようですが、スキーン腺の形が、個人差が大きいようなので、両方のケースがあるのかもしれません。

また、スキーン腺から出る液それだけで「潮」になるのか、あるいは他の分泌液や、あるいは尿が混じって潮になるかも、まだ議論が続いているようです。潮の成分の比較は80年代から精力的に行われているようで(文献3, 4など)、「尿そのものではない」「男性の前立腺液と同じ成分を含む」というのは、かなりはっきりしているようです。下の写真で、左はある女性が出した「潮」で、右は同じ女性のオシッコだそうです(文献4)。色からして明らかに違いますね。で、どうやってこの潮を集めたかって?ボランティアの女性にオナニーをしてもらって、出てきた潮をプラスチックの容器で受け止めるみたいですよ。

 

このように、議論は続いているものの、潮の成分研究は昔から、いろいろ盛んのやられています。その中で、2007年の福岡大学医学部の研究が、どう飛び抜けているのが、いまいち良くわかりません。

そもそも論文を捜してみても、見つかるのは

(1) 「female ejaculation 分泌液の法医学的体液検査による検討」
柏木正之1), 中園毅彦2), 原健二1), 柏村征一3), 福島直2)
1)福岡大学医学部法医学教室, 2)福岡県警察本部刑事部科学捜査研究所, 3)福岡大学医学部総合医学研究センター
日本性科学会雑誌 25(2): 113 -113 2007
 
(2)「female ejaculation分泌液の法医学的体液検査による検討」
著者:柏木正之、中園毅彦、中園毅彦、柏村征一、原健二
資料名:日本法医学雑誌
巻:61 号:1 ページ:80 発行年:2007年03月26日

ぐらいで、どちらも論文というよりも、学会報告の記録。簡単な内容です。どういった内容かというと、「某社の業務上、潮を生じた際に、女性から射出された分泌液(5名)について」その成分を調べた、ということです。目的は、共同研究者に福岡県警察が入っていることからも分かるように、例えばシーツに付着した体液が、精液なのか、シッコなのか、はたまた潮なのかが区別できるかどうか、について調べているようです。で、結論は「精液で特異的に検出される成分の濃度が特に高いという結果は得られず、男性の精液由来の斑痕との鑑別は特に困難ではない」「(潮は)無臭でほぼ無色の体液に尿が混入していると考えられ、法医学実務においては、この斑痕を単なるヒト尿斑と認識する可能性があり、注意が必要」ということなのですが、生データも示されていませんし、日本語でかかれた学会要旨なので、なんで週刊ポストが、これをさも大発見のように報道したのかは、全然分かりません。

でも、この某社の業務上、潮を生じた際」、って気になりませんか?業務上、潮を出す会社ってのは、はやりAV制作会社なのかな・・

  

文献

1. Addiego, F., Belzer, E.G., Comolli, J., Moger, W., Perry, J.D. & Whipple, B. Female ejaculation: A case study. J Sex Res 17, 13-21 (1981).

この論文では前立腺に特徴的な酵素、prostatic acid phosphataseが潮に存在することを根拠に潮は前立腺液の射出物と提案。

2. Dietrich, W., Susani, M., Stifter, L. & Haitel, A. The human female prostate-immunohistochemical study with prostate-specific antigen, prostate-specific alkaline phosphatase, and androgen receptor and 3-D remodeling. J Sex Med 8, 2816-21 (2011).

この論文では女性の前立腺の組織解析を報告。

3. Zaviacic, M., Dolezalova, S., Holoman, I.K., Zaviacicova, A., Mikulecky, M. & Brazdil, V. Concentrations of fructose in female ejaculate and urine: A comparative biochemical study. J Sex Res 24, 319-25 (1988). 

「潮」の成分の生化学的な解析

4. Rubio-Casillas, A. & Jannini, E.A. New insights from one case of female ejaculation. J Sex Med 8, 3500-4 (2011). 

潮と尿の比較研究

 

 

 

『ジスイズ・オルガズム美容術』