『メスマー美容術入門14-信じる力』ではジョー・マーチャントの『「病は気から」を科学する』で紹介されている、暗示のもつ治癒力について学びました。
いわゆる『プラシーボ効果』というやつで、「この薬、メチャ効きますよ〜」って砂糖水をわたしても、「ほんとだ!凄く効きました!」って不思議なことに治っちゃう現象のことです。
「インチキ」「錯覚」「騙された」「エセ医学」とネガティブな印象を持たれる人も多いかも知れませんが、メスマー的には「暗示により人間本来が持っている自然治癒力をうまく引き出した」とポジティブに考えたいです。『プラシーボ効果』では、「治った気」になるのではなく、実際治っちゃうのです。
『女性の性欲』で紹介したNATURE誌10月5日号に掲載の"SEXUAL AROUSAL: SEX MATTERS."の中でも、女性の性欲改善のクスリの開発過程において、多くの場合でプラシボ効果が観察されると書いてあります(下のグラフの一番下)。
つまり、「このクスリ飲むと、ムラムラしちゃいますよ」と砂糖水を与えても、実際の試験中のクスリを与えた時と同じぐらい、ムラムラしちゃうと言うわけです。こういう場合は、この試験中のクスリは開発失敗!となっちゃい、世に出ることはありません。
ただ、別の捉え方をすれば、クスリがなくても、悩みをお医者さんに相談し、それに対して何らかのケアを受けるということだけで、クスリがなくても、悩みが改善してしまうという訳です。
さて、この「プラシーボ効果」と逆の現象のことを「ノセボ効果」と言います。つまり「このクスリ、めっちゃ気分悪くなりますよ」と砂糖水を渡しても、ゲロゲロ吐いて、寝込んでしまうような現象です。
『「病は気から」を科学する』でも、ノセボ効果の例がいくつか紹介されていますが、例えば抗うつ剤の開発試験(治験といいます)に参加していた若い男性が、ある時、恋人と喧嘩して、死んでやる!(と言ったかどうか知りませんが)、そのクスリを瓶ごと一気飲みをして、動悸と異常な血圧降下を起こし、病院に収容され輸血などの緊急処置を受けます。
やがて、彼が参加していた開発試験を主導している医師からの病院への連絡で「その患者が飲んだ抗うつ剤は、プラセボ群(つまり、ニセのクスリの方)だ」と。
つまり、彼は砂糖水(実際には砂糖ではないでしょうけど。ようするにニセグスリ)を飲んで、実際に動悸と異常な血圧降下を起こしたのです。それを患者に伝えたところ、15分ほどで血圧降下も動悸も平常に戻った、といったお話しです。この場合も、ニセ薬を飲んで、実際に動悸が起こり、血圧も下がっているのがポイントです。
サイエンス誌という米国の科学雑誌に、この「ノセボ効果」が、脳ミソのどこらへんの活動で起こっているのかを調べて論文が出ているので、ちょっと紹介してみましょう。
タイトルは「Interaction between brain and spinal cord mediate value effects in nocebo hyperalgesia」で「脳と脊髄の相互作用がノセボ効果による知覚過敏症の価格依存的を起こす」です。ドイツのグループの研究です。
テストは、健康な人に、「アトピーの薬を作ったので、その副作用を調べさせてね」とニセのクスリを与えます。
この時、2種のクスリを与えるのですが、どちらもニセものです。
ただし、一方は、いかにも高価そうな包装とデザインのくすり。一方は「安物」という感じのデザインにしておきます(実際には、さらに薬の温度をちょっと変えるなんて細工もしていますが、省略)。
まあ、こういうので簡単に人間というのはひっかかってしまって、「あー、いやー、なんかヒリヒリして副作用あるかな〜。こっちの青いクスリの方が副作用強いかもね〜」と、高そうに見える青いクスリの方が副作用が強いと報告します(実際には、同じモノが入っている、というかクスリは入っていない同じニセグスリなのですが)。良く効くクスリ=高いクスリ=副作用強い、という社会的な暗示があるのでしょうね。
なんだか、ドッキリカメラみたいな研究ですが、研究そのものの重要性というのは、その時に起こる脳と脊髄の神経の活動を、MRIという手法で同時に観察できました、というところにあるらしいです。ようするに、実際に青い方のクスリを塗ったヒトは、よりヒリヒリと感じるわけですが、その時、体のどこの神経が働いて、そいなっているのかを調べました、という研究成果なのです。
前回の『セックスの科学』や、その前にも何回が出てきましたが、このMRIという装置を使った脳の神経活動の観察は、神経科学の研究で最近流行の手法のようです。
このように暗示というのは、ポジティブにもネガティヴにも働くので、注意が必要です。
特に医療分野では暗示が強烈に入ります。
クスリの副作用の説明など読むと、恐ろしい言葉が並んでいますが、過度に気にすると、それだけでノセボ効果で、実際に気持ち悪くなり、副作用が出てしまいます。
暗示の力は強力なので、良い方に使いましょうね、というのが今回のコラムのまとめでした。
(文献)
Tinnermann, A., Geuter, S., Sprenger, C., Finsterbusch, J. & Buchel, C. Interactions between brain and spinal cord mediate value effects in nocebo hyperalgesia. Science 358, 105-108 (2017).
医療分野では暗示が強烈に入るので、医療関係者は言葉の使い方に注意しましょう、という教育動画。
「ノセボ効果」っていう曲を歌っているAsbelというメタルロックのグループ。聴いている人を落ち込ませちゃおう、という音楽なのかもしれませんが、落ち込んでいる時に暗い曲を聴くと、共感を感じて、逆に心が上向きに方向転換したりするのが、アートの面白いところです。
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