いつも怪しげな論文の宝庫のジャーナル・オブ・セクシュアル・メディシンからの研究紹介が多いのですが、今回はサイエンスの世界では、水戸黄門の印籠のような威力のある、NATURE誌から紹介してみましょう。商業主義に走り、かつて程の威光はなくなりましたが、まだまだブランド力はたいしたものです。

で、今回紹介する記事は10月5日号に掲載されている"Sexual arousal: Sex matters."(「性的興奮:性問題」)という記事です。

 

 

正確には研究論文ではなく、解説でありまして、もっと正確にいうなら10月5日号のおまけみたいについている

「展望:女性の健康」

っていう特集の中の1つなのですが、まあお許し下さい。

クリションマンの正体』『女性用性感治療院』 『ザ・オマンコ2016』『Cの文化史』などでも書いてきましたが、医学ってのは、男性中心に研究されてた歴史(研究する人が男性というのみならず、研究の対象が男性中心という意味で)をもち、女性のからだとこころについては、男性に比べて、その研究がまだ遅れています。

なにせ、つい最近まで、「ヒステリーの原因は、女性のお腹の中で子宮が動き回るため」なんてことが信じられていた程度なのですから。

さてこの解説。筆者は英国のフリーライターのアンナ・ペセリックさん。

冒頭の紹介文で「女性の性的な欲求や満足に関する研究は、男性の研究に比べて遅れている。科学者と製薬会社はこの遅れを取り戻すべく研究開発を進めている」とあります。

オリジナルの文に沿って、内容を紹介していきましょう。

性の話になると、女性に関しては確固たる証拠がない場合があります。例えばGスポットの話

このコラムでもさんざんご紹介していますように、Gスポットがあるのかないのか、議論が続いて科学的な結着はついていません。

11世紀のインドの書には既にGスポットの存在が示されており、いくつかの科学的なエビデンスもないことなないのですが、いまだに多くの研究からはその存在が証明されていません

ここらへんは『クリションマンの野望:序章』『クリションマンの故郷』『暴れん坊クリションマン』『クリションマンの正体』『ザ・オマンコ2016』などをお読みください。

同様に、何人かの進化学者は女性のオーガズムが男性の精子が子宮を上りやすくするために進化してきたのだと考えていますが、他の進化学者は、オーガズムは女性にとってはなくてもよいもの(例えば、男性の乳首みたいなもの)と考えています。

そもそも女性の性慾というものが存在するのかどうかんついても、科学者の間にコンセンサスはありません

へー、サロンさん、性欲のない女性なんて、会った事ないけどな〜

 

今は欧米文化は性に開放的のように見えますが(実際には保守的な人達もかなりいますが)、少し前までは、女性が性的な興味をもつなんてとんでもないという世界。オナニーも、潮吹きもしてはいけません。大きな声も出してはダメです。

でも、現代ではむしろ「女性が性欲をもつ」状態が正常で健康的な状態。逆に、「性欲がない」状態はよろしくない、と多くの人が考えています。だいたい、1割ぐらいの女性が、性欲がない、「hypoactive sexual desire disorder=HSDD(性欲低下障害)」だそそうです。

何でもかんでも「障害」と名前つけて病気扱いするのもどうかとは思いますが、適当な性欲はある方が健全のような感じはしますよね。

次に薬と性欲との関係が書いており、乳がんの抗がん剤のあるタイプが性欲をなくしてしまうと。

これはしかたないですよね。乳がん治療優先しないと。

ピル(経口避妊薬)なんかも性欲を減退させる働きがあるようなのですが(フェラチオに興味がなくなるという研究があるそうです)、こちらは製薬会社が研究に乗り気でありません。

薬の臨床研究は莫大なお金がかかるのので、製薬会社のサポートが必須なのですが、製薬会社は、自分がもうからない研究はサポートしたくありません。むつかしい問題です。

 

逆に、なぜか性欲を副作用として昂進してしまう治療薬があり、例えばパーキンソン病の治療薬のあるもの。

これは、男女とも起こるそうですが、この薬を飲むと、超スケベになってしまうそうです。

 

ラットのクリトリスを刺激して、どのような脳内ホルモンが放出されるかも、ようやく最近になっって研究が本格化してきたそうで、このような研究から、女性の性欲増進薬ができてくるだろう、ということです。

 

男性には「バイアグラ」「シリアス」「レビドラ」というED治療薬、というか「公認媚薬」が揃っているのに(『恍惚のマロンクリーム』参考)、女性にはそういうのがないのが不公平という意見も多いです。

正確にはないわけでなく、上記のHSDD治療薬として「アディ(別名flibanserin=フリバセリン)」という薬が米国で2015年に承認されています。この薬、最初は抗うつ剤として開発されたそうですが、抗うつ作用はあまりなかったものの、エッチな気分になるという副作用に注目して、HSDD治療薬となったそうです。

その他にも、HSDD治療薬がいくつか開発中で、まもなく世に出てくると期待されており、性欲低下障害に悩む女性には朗報だということです。

ただ、上記の「アディ」も、使用にはものすごい厳し条件がつけられており、値段も高く(月に10万円弱)、お酒も飲めなくなると、簡単には服用できません。

 

「性欲がない」とお悩みの女性に加えて、「イケない(anorgasmia)」と悩んでいる女性もかなり多いはず。このような女性のための治療法に関しては、まだまだこれからの問題で、SM美容に大きな関心が集まっているのだ、と締めくくっています(最後の部分だけウソ)。

 

(文献)Petherick, A. Sexual arousal: Sex matters. Nature 550, S2-S3 (2017).

 

女性用バイアグラ「アディ(別名flibanserin=フリバセリン)」について、おそらく否定的な紹介動画。

オマンコに響くサウンドで、発情するらしいですよ。

 

『ジスイズ・オルガズム美容術』