「ちょっと余裕を空けているところがミソなんや」
『SM美容術入門55 - 雪村春樹(6)』から連載している、FetLifeの「Yukimuran Studies」にアーカイブされている、雪村春樹による「雪村教室の記録」の第4回目の様子を、著者のUgoさんの許可をいただき、転載します。
文中Y先生とあるのが雪村春樹。理解しやすくするために、Ugoさんの原文にはない画像もつけています。
イタリックのセリフは雪村春樹からUgoさんへの指示。太字イタリックはセリフは雪村春樹から、受け手の女性へ発されたものです。
『縛詩 BAKUSHI』より。
4回目のレッスンの内容をご紹介しましょう。
今回のモデルはAkiちゃん。Naeちゃん、Chieちゃんに続く、3人目のモデルさんです。
これまでの3回のレッスンでは、後手縛りから支点の縄を取り、横に寝かして、両脚首縛りから、片足開脚といった流れを学びました。
片足開脚縛り。
今回は、「獣縛り」 を学ぶことになります。
『淫縛ポーズ集1』より「獣縛り」。
雪村教室で習うのは、基本的にはこの2つ。後手縛りからの展開と、獣縛りを繰り返し繰り返し練習します。
手順としては全く難しくありません。おそらく、そこそこ縄を使える人なら、1時間もあれば、手順は完璧に頭に入ってしまうでしょう。
ですが、Y先生から教わるのは、縛り方の手順ではありません。受け手の心のつかみ方、受け手との心のつなげ方を教わっていきます。
今回、この4回目のレッスンの録音を聴き返してみて、このレッスンで、Y先生は「言葉責め」の重要性を教えてくださっているのが分かります。
レッスンを受けていた当時は、獣縛りの手順を覚えるのにせいいっぱいで、言葉責めの重要性まで気を回す余裕はありませんでした。
というか、雪村流における言葉責めの位置付け・意味が理解できたような気がしだしたのは、ようやく最近になってからのことです。
縄、言葉、視覚・・・使える全てのチャンネルを使って、受け手との心を連結させ、深いイメージの世界で遊ぶ方法を教えるのが、雪村流です。
録音は、レッスン開始前の雑談から始まっています。
「SMは妄想の部分が多いからな」
「精神的に満足せんと満たされんやろ」
「(今日教える)獣縛りは、起承転結(で言ってしまえば)縛って終わり(といった単純なもの)やけど、(縛りとして)幅が広い(のでイメージの世界を膨らませやすい)」
手順としては、単純な縛りなのだけれども、ちょっとした工夫で、受け手のイメージをどんどん膨らませやすい縛りだと、いうことです。
なので、Y先生が好んで使う縛りなのでしょう。
プラス、Y先生の場合、プロの緊縛師として、見た目が美しい(DVD作品や写真集として、鑑賞者の心を掴みやすい)ことも重要なファクターですので、獣縛りに縛られた女性の体が美しいというのもあるのでしょう。
この2つの基準で選ばれ残ってきたのが、後手縛りからの展開と、獣縛りなのだろうと理解しています。
続いて、Y先生のDVD作品のスチール写真をPC画面で見ながら前回までのレッスンの復習です。
「ちょっと余裕を空けているところがミソなんや」
「きめてしまうと、(受け手は)どうしようもないんやけど、ちょっと余裕があると、(受け手は)リアクションできるんや」
「マゾの居場所、演技する場所をつくってあげる(のが縛師の役目や)」
「(受け手が)イメージを作るのを助けてあげるわけや」
「(受け手が)どんなイメージでリアクションしてくるのかわからへんけど(予想できない)、(受け手は)おれにいろいろアピールするわけですよ。それを楽しむ。」
受け手のイメージの世界を膨らませ、その中で縛り手と受け手が遊ぶ、というのが雪村流の言う縄でのコミュニケーションです。
イメージの世界を膨らませ、受け手とのコネクションを確立するために、雪村流では特に、導入部に極めて大きな注意を払います。
今ふり返ってみると、こうやってレッスンの前に、モデルさんにY先生の作品を見せ、そこに映っているモデルさんの性癖を面白おかしく紹介するステップも、すでにY先生による、Akiちゃんのイメージ空間の拡大作業の最初の部分なのです。
1回目のレッスンで教えてもらった「前手引き上げ縛り」のDVD作品を見ながらの復習です。
「立ち上がれんことはないけど、上がられへん(ていう状態がちょうどいいんや)」
前手引き上げ縛りの最初のステップ。『雪村春樹 淫縛ポーズ集 1』より。
「(受け手が)縛られた女のM女を演じて楽しんではるのを(われわれは)助ける(わけや)」
「(この前手引き上げ縛り)だけで30分(は楽に遊べる)。」
ということで、獣縛りを学ぶ前に、ウオーミングアップもかねて、「前手引き上げ縛り」の復習です。
「(前手首の)縛り方は2つ3つあります」
まず、片手首を縛ってから、両手首を揃えて縛る、雪村流独特の縛り(「片手首掛け」)。
『雪村春樹の縛り方講座~情愛縛りで楽しむ』より「片手首掛け」。
最初から両手首を縛ってしまう方法(「ふた巻き縛り」)が主な2つの方法です。
『雪村春樹の縛り方講座~情愛縛りで楽しむ』より「ふた巻き縛り」。
勢いをつけて縛るには、後者の方が向いているでしょうし、相手の抵抗が強い時は前者の方が向いています。
手首に何回回すのか、どちらに向かって回すのかとか、手順が気になるところですが、「適当でよろしいわ」というのが、Y先生のたいていの答え。
手首の出っ張りの骨(橈骨茎状突起と尺骨茎状突起)にあたらないようにするのと、手首を横の方向に縛る縄はあまり強く縛らず、手首の間を縦に縛る縄を強く縛ることぐらいが外せないポイントです。
両手首縛りでは手首をブリッジする縄を縦に縛る部分だけはしっかりと縛っておくのがポイント。『雪村春樹の縛り方講座~情愛縛りで楽しむ』より。
あとはかなりフレキシブルに、その場の流れでいろいろな縛りで対応します。受け手の「こう来るだろうな」という予想を外すことも大切なことは、あとあと学んでいきます。
Akiちゃんの背面に位置し、後ろからハグします。この時の受け手の反応で、今日はどのような両手首縛りにするのかが決まります。
てなことは、今の私には分かりますが、当時の私は、まだそのような余裕はありません。
1回目で教わった、まず片手首を縛る方法(「片手首掛け」)で進めていきます。
「こっちとこっちと自分の肘でおしえあげてやると縛りやすいで」
これは、私の両肘を使って、Akiちゃんの両肘を内側に押し込むように、かつ手首を上に押し上げるようにもっていくようにとの指示です。
両肘を使って、受け手の両肘を内側に押し込む。
この後ろからの、両手首縛り、受け手の目の前で受け手の手首を縛っていきますので、視覚的にも「支配の宣言」を伝える効果があります。
「そやなー、エエ雰囲気や」
Akiちゃん、早々と軽いトランス状態に入ってくれます。
「繩を走らせます」
手首を縛ったあとの縄尻を、鴨居(に見立てた竹の横軸)の支点のための輪に通しなさいという指示です。
「先に走らせてぇ」
手首や足首を吊り上げる時には、吊り上げるまでは、受け手に吊り上げるシグナルを送ってはいけないということです。
つまり、この場合は、縛られた手首には、縄の引く力が伝わらないように、支点のひっかけを終了せよ、との指示です。
「ここの間にいれましょ。どっちからでもかまへん」
支点から下に戻した縄を、手首の間に通して、上向きに折り返します。前からこちらに通そうが、こちらから前に通そうが、どちらでもOKということです。
「ずーと引き上げる」
ここからは、気を入れて、受け手に被虐の感覚を誘導します。
「つんつんまでやりましょ」
一度、ぎりぎりまで上に引き上げ(すなわち、受け手に余裕を与えない状況)、そしてすぐに少し緩めて、遊び(余裕)を与えよとの指示です。
一度「つんつん」まで上げて、被支配感を味あわせてから少し緩める。『雪村春樹 淫縛ポーズ集 1』より。
「手順としてはそういうことですが、ここにストーリーをつけていきましょ」
「一回おろしてください。私がやってみましょう」
Y先生が見本を見せてくれます。
「やらしいオッパイみたろか」
「おっぱいぐちゃぐちゃにしたるわな」
「おっぱいさわったろ」
手首を上げつつ、胸元が無謀になっていくことを伝えて、追い込みます。
「もっと見たろ」
「これでオッパイゆっくり触れるな」
手首を少し余裕を与えて吊り上げた状態です。
余裕があるので、言葉責めに反応して、Akiちゃんは、なんとか胸を防御しようと体をくねらせます。
「隠されへんな」
「おっぱいサワリ放題や」
「なんで乳首たってんねや。やらしい子やな」
「丸見えや。やらしいおっぱいや」
「舐めたろかな〜。触ったろかな〜。グチャグチャにしたろ」
といった具合。
Akiちゃんのトランス状態は、私の時よりはるかに深いものです。
再び私が、挑戦します。
言葉責めをがんがんと浴びせなければならないのですが、なかなかこの言葉責め、自分の言葉で責められるようになるには、時間がかかります。
Y先生の言い方をそのまま真似してもだめです。
私も関西弁ですが、同じ関西でも地域が違うと、方言もかなり違いますし、Y先生は、その年代に特有の古い関西弁です。
なによりも、パーソナリティーや声質が全然違いますから、私がY先生の真似をして言葉責めをしても、お笑いになるだけです。
生まれ育った、体に染みついた言葉でないと、相手には心が伝わらないです。
なので、雪村流の言葉責めの部分は、自分で自分のスタイルを作るしかありません。
したがって、マスターするには時間がかかります。まあ、この時は、なんとかがん張って、たよりない言葉責めをしているのが録音されています。
「このコントロールで随分デザイン変わってきます」
これは、手首の引き上げ具合についての説明です。
「これでもいいし、もうちょっと上げてもいいですしね」
「もうちょっと上げたらどうですかね」
こういった、細やかなバランスに対する指摘は、実地講習ならではのもので、実際、ほんのちょっとの力加減の変化で、全体のイメージが大きく変わることを、身をもって学んでいきます。
「イヤラシイ顔とイヤラシイオッパイと両方見えるは」
「お顔と乳首見えるは。いやらしい子やな〜」
ここで、写真を撮るようにとの指示です。
「はい、一回下ろします」
「前はほどかないで、側面に寝かせます」
引き上げた両手首を降ろし、支点にかかった縄を外しますが、両手首は縛ったままで、Akiちゃんを横に寝かせます。ここから、「獣縛り」に入ります。
「足、留めます」
両手首縛りと同じように、まず片足首を縛ってから、両脚首を揃えて縛る、雪村流独特の縛り方です。
両足首縛りは、まず片足首から始める。
手首と同じように、くるぶしに縄が触れないように注意するのと、足首を横方向に回す縄は弱めに、続く、足首の間を縦に絞める縄はきつめに縛ります。
「縄、走らせます」
両脚首縛りに取った縄の、縄尻を支点の輪っかに通します。さきほどと同じく、足を上げることを予感させてはいけません。
「足の裏を押して仰向けにします」
横向きで寝てる体勢から、仰向けに変えて、足首を上に吊り上げた状態にもっていくわけですが、縄だけで引き上げるのでなく、縄をもっていない、もう一方の手で、足の裏を押し上げるようにしながら足を上げていきます。
足の裏を押し上げるようにしながら足を上げていく。
「グーと引っ張ります」
「支点は、ウエストぐらい」
まだ腕は上げていません。足だけが引き上げられている状態です。
支点の位置がどこにあるかによって、引き上げた状態の構図が大きく変わります。
だいたい寝ている受け手の腰の真上に支点があると、バランスがよい構図になります。必要に応じて、支点をずらして、バランスを調整します。
「もうっちょっとあげてそこで止めます」
「足回るぐらい。もうちょっと上げても大丈夫」
足の上げ具合も、手首と同様。
少し余裕を与えるぐらいのところで留めます。
続いて、両手首を上げるのですが、Y先生の獣縛りの場合、手首の縄を支点の輪っかに通すのではなく、
足首近くの支点の縄にひっかけることで、手首と足首を近くに持って来ます。
つまり、鴨居から支点の縄で吊り上げられるのは、足首だけです。
「つろうても、手と足を一回つけてもて」
まず、いっぱいいっぱい手首を足首の近くまでもってきます。この体勢はかなりきついのですが、一度その状態を味あわせておき、支配されたことを伝えます。
すぐに、それを緩めて、比較的楽な体勢へもっていきます。
「縦に引っかけて。。。」
「縛り目つけんでもええ」
雪村流では、「結び」はほとんど使いません。
この場合も、両腕からの縄は、足首からの支点の縄にひっかけて手首に戻し、再度支点の縄にもどし、そこで軽く固定するだけです。
これで「獣縛り」の完成です。
最初ですので、まずは手順だけを。
写真を撮って、ひとまず開放。
お菓子を食べながら休憩タイムです。
「羞恥心のある人は露出狂やからな〜」
「自分の性癖で、(一人で)悩んでると(頭が)おかしいなるけど、曝け出すと楽しい。」
「(性癖もってる人は)感性が普通の人よりもええんですよ。」
「オレも(自分の性癖に)悩んでいた時あったけど、美濃村晃さんとおうてなくなりました。」
美濃村晃さんとは、須磨利之さん。昭和SM文化の母とも言える人で、Y先生のSM人生も、昭和SM関係者の美濃村晃さんへのオマージュ作品ともいえる『縄炎 ~美濃村晃の世界~』を監督したところらへんから、本格的なものになります。Y先生は、美濃村さんを心の底から尊敬していました。
雪村春樹が敬愛していた美濃村晃(須磨利之)。
「(美濃村さんが私に)アンテナ一本多いと思ったら楽しいやないか(と言ってくれて、心が楽になった)」
続いて、話は、Y先生の部屋に飾ってある「書(カリグラフィー)」の話題に。
「叔母が書道やってたからな。カルチャークラブ(レベルでたいしたことないけど)」「オバが死んだあと、半紙とかいっぱいあったから(始めたんや)」
文字ではなく、墨が飛び散ったような作品について、Akiちゃんが質問しています。
「スミをぶつけだだけや」
「人間国宝の陶芸家が柄杓で釉薬かけていたのを真似したんや」
「スミにノリをまぜて柄杓でかけたんや」
Y先生、その後、しばしば、書道に専念して余生を送りたいという夢を語っていました。われわれとしては、緊縛をやめて欲しくはなかったので、困っていましたが。
続いて、ライブについての話です。
Y先生について、しばしば「ライブを好まなかった緊縛師」といったような記述がありますが、これは間違い。
ライブパフォーマンスは大好きで、1990年代と、2000年代の2時期に、それぞれ何回かライブを集中してやっており、これらのライブで縄の腕が上達したと、その後の何回か説明していました。
打ち合わせ無しで、初めて会うモデルといきなり本番の舞台でプレイする、その緊張感がたまらないということです。
「(オレが)後ろにいても、こちらが気を抜くと(モデルにはすぐ)分かるやで」
「ライブの時、初めて会う(モデル)とすることにした」
「始める前にも(打ち合わせも)コミュニケーションもせーへん」
「(ステージの上で)くどいて、後手に回して、縄かける」
「それで、自分のものになっていく」
「こける場合もある」「10人に1回ぐらいこける」
「そやから、モデルは二人用意して、一人は過去に相手したことがある、安全パイや」
「AV制作も同じ(で、初めてのモデルが多い)」
「今、雪村流の原点みたいな(DVD作品)を作り出した」
「第一回は鴨居や」
これは、2014年にリリースされた『雪村流縛り 鴨居 ~KAMOI~』の話です。
編集途中の動画を見ながら説明が続きます。
半吊りの場面。
「胸の縛りは、後ろから抱えた時の位置や」
「羞恥して、見てあげる、愛でるということがやな」
「見る」ことも雪村流では、大きな位置を占めます。要所要所で、撮影するようにとの指示がでるのも、そのためです。
「女のひとは何度逝かしても往生せえへん」
「なので、逝かさんと終えた方がええ」
さて、休憩も終わり、獣縛り復習です。
「くるぶしにあたらんように」
「横縄ソフト」「縦で縛る」
両手首縛り、両脚首縛りの注意点で、既に説明した通りです。
「縄尻ひっぱって」「まさぐります」
両脚首縛りのあとに、太腿を愛撫します。
「足の裏押して引き上げる」
両手首も吊り上げ、獣縛りの完成です。
「今、背中がべちゃっとついています」
「コントロールしようとすると、支点を頭のほうにもってくると、お尻が浮いてコントロールしやすくなります」
ここで、支点の位置を少し頭側にずらします。
支点は、鴨居に見立てた横に走る竹に縄の輪っかでとっていますので、簡単にずらすことができます。
支点の位置を頭側にずらすと、足が頭側に傾き、それに合わせてお尻が少し浮きます。したがって、「背中がべちゃっとついている状態」から「背中の一部だけがついる状態」に変わりますので、支点の縄を前後左右に動かすことで、体をゆらゆらと動かすことができるようになります。
『雪村春樹の縛り方講座~情愛縛りで楽しむ』より「獣縛り」。この体勢は「背中がべっちゃりついた」状態に相当します。
そうすることにより、受け手の心も揺さぶるのですが、それについては後日詳しく学びます。
引き続いて、寝た体勢からの後手縛りの練習です。
獣縛りから、まず吊り上げた両手首を解放し、次に吊り上げた両脚を下ろします。両手首、両脚首は縛られたままで、Akiちゃんは横向きに寝た状態です。
次に、両手首を解放。手首は体の前にあります。
横に寝たままなのですが、ここから両手首を背中に移動します。
片方の腕(この場合は左腕)は、背中側に移動するときに、体と床の間を通らなければなりません。
私の左上で、Akiちゃんの体と床の間に差し込むように滑り入れ、体の前の左手首を取ります。
そのままゆっくりと、左腕を背面に移動させます。
右腕は、体の上を移動できるので簡単。
背中で両手首を重ね(通常の後手縛りと同じ、腰の近くです)、両手首縛りを寝たままの体勢でおこないます。
次に、胸に縄をかけなければならないのですが、流石にこれは寝たままでは無理です。
ですので、一度Akiちゃんの上半身を起き上がらせます。
両脚首は縛られたままで、ぐったりしていますので、うまく起き上がらせなくてはいけません。
これは初回から毎回練習をつけられるのですが、体を回すような感じで、うまくタイミングを合わせれば、綺麗に起き上がります。
決して、力任せに起き上がらせないところがポイントです。
素早く、胸縄をかけて、再び優しく寝転がせて、寝た体勢からの後手縛りの完成です。
「縄尻大切よ」
後手縛りが完成してたので、安心して縄尻を握るのを忘れていました。
常に、縄尻を通じて、受け手とシグナルのやりとりをするのが肝要です。
「1本繩ですけど、胸縄に支点取って、片足開脚しましょか」
片足開脚の復習へと連続します。
「どっちにせよ、悪い子やゆうことやな」
片足開脚の手順については、過去の記録をご覧下さい。
「悪い子やから後ろ手に縛られてるんや」
「足首をお尻ぐらいの高さにあげて」
低い位置での開脚です。雪村流では、低い位置での開脚がより強い羞恥心を誘導すると学びます。
「いやー、恥ずかしいな」
「上げたままや。あっちゃもこっちゃも(鏡に)映っとるわ」
「開放して、つんつんまで上げる」
低い体勢の開脚から大きく足首を引き上げた責めの要素のきつい体勢に移ります。
「えらいかっっこやな〜」
「じーとみよか〜」
「ちょっとそれ緩めてもらえます」
いっぱいいっぱい上げた足首を、ほんの少し緩めます。
「こっからやな・・・足の甲ありますやろ・・・骨盤とこにいれますねん」
「ちょっとあげますねん」
私の片足の甲の部分を、Akiちゃんのお尻と床の間に差し入れ、支点の縄を少し押しながら、足先でAkiちゃんのお尻を上に少しだけ上げます。
「これで責めや・・足の甲で上げるだけで責めや」
「吊られた感覚(になる体勢)や」
ここの使い方は、真横で絞ってください
こっち側に絞ってください。
「イヤラシイ腰やな」
「キツいと思いますねん。一回おろしてあげよか。」
高く上げた片足を下ろし、支点からも外します。
そのまま、腿縛りにせよとの指示が出ます。
「いってこい、いってこい」
「いってこい」というのは、雪村流での縄さばきの指の動きを、そのリズムが分かるように言い表す表現。
人差し指を差し入れ、指先に縄をひっかけて引いてくる動作の時、しばしばY先生は「いってこい、いってこい」とかけ声をかけて、スムーズな指の動きを促します。
雪村春樹の「いってこい」の指の動き。
「彼女しんどいから、ウェスト掛けて、縛っといてやろう」
両方の足を腿縛りにして、そのままうつ伏せにひっくり返し、股縄を1本入れます。すなわち、ウェストの前で結び、股を通し、後ろで返して前でさらに返し、支点に飛ばします。
後手縛りから太腿縛り、うつ伏せにして股縄を入れる。
「一回、後手解きましょか」
うつ伏せの体勢で、後手縛りだけを解放します。
腿縛りのまま、四つん這いになる格好です。
ここで、首縄をかけ、ポールに結んで犬のような格好にします。
太腿縛りのまま四つん這いになり、首縄をかけてワンワンスタイルに。
「そうなりたかったんや」
「舌、出してみ」
「そうや、よう似合うわ」
ここらへんからAkiちゃんのトランス状態がさらに深まります。
「これでワンコになっていこうな」
「うしろから舐めてくれる彼氏、捜したろな」
「首輪似合うようになったら、坊主にしたらええなあ」
「家畜になったらええな」
「家畜になったらええなそうや、家畜図鑑いうのがあるからな・・・・ここにあるわ。見みしたって」
と、Y先生は、私に室井亜砂二さんの『哀犬倶楽部』(大洋図書, 2004)を手渡します。
「ええな、そないなったらええのやな」
「べちゃべちゃか・・やらしいな」
実は、Akiちゃん、いわゆる「人間犬」というのが大好きで、人間犬のモチーフが多い室井作品もネットでしばしば覗いている、といった趣味をもちます。
室井亜砂二展覧会のポスターから。人間犬のモチーフが多い。
もちろん、Akiさん、事前にそのような情報、Y先生には漏らしていません。
なのに、会ったその日に、Y先生は、見事Akiちゃんの性癖を見抜いてしまったんです。
この手の「読心術」的なY先生の不思議な力、その後も何回か目撃しました。Y先生の、一瞬にして、相手の「癖(へき)」を読む力は、凄いものがありました。
「適当にフェイドアウトしましょうか」
かなり、深いトランスに入っているAkiちゃん。
Y先生とは初めてのレッスンなのですが、いきなり雪村流の虜になってしまいます。
「側面にした方が解きやすいです」
「結び目つくらんでも、来た道戻ったらほどけませんから」
繰り返し説明しているように、雪村流では可能な限り結び目を作りません。
動きが多いプレイなので、流れをこわさないためです。
「腿縛り」はいろいろな緊縛師が、いろいろなパターンを考案しています。
雪村流を習い始める前は、雪村流の腿縛りには、何か物足りなさを感じていました。ひとまき、ひとまき、結び目などを入れた方が、できあがりはきれいで、おそらく縛られた感じもキツいのだろうと思います。
ですが、雪村流を習い始めてからは、このシンプルな腿縛りが、受け手の心を掴むのに、絶大な力をもつことを知ります。
腿縛りの秘技については、後日のレッスンで教わることになります。
レッスンが終わり、長めの雑談が続きます。
「結局、Ugoさんとか、いろんなストーリーとか知ってるやんか。それをいろいろふってあげると、縄一本でもプレイできます」
受け手によって、それぞれツボにはまる性癖があるので、それを見つけて、ストーリーを組み立てなさいということです。
「マゾを演ってもらうべく、手助けみたいな(ことをわれわれがするような)もんやな・・縄奉仕や」
「(そういう目的のためには)スムーズに変化させるほうが、(受け手がイメージの世界に)入りやすいから、こっちの腕をあげていかなしょうないな」
「なわの行き先で気持ち変わるやろ。(そういうことは、実際)プレイしなわからへんやろ。」
「きつう縛ろうと思ったら誰でもできるけど、ゆるう縛るのは難しいんや」
ここで、ハウツービデオのお話し。
2014年に出た、雪村春樹『雪村春樹の縛り方講座 ~情愛縛りで楽しむ~』について、
2013年にヴァンアソシエイツから発売された教則DVD『雪村春樹の縛り方講座~情愛縛りで楽しむ』。
「あんまりこまこう言うてもややこしいなるし・・」
「あれは、ほんまに初心者のために作った」
「次は中級で、縄だけに特化して(作りたい)」
この中級編の編集途中で、Y先生はわれわれの前からいなくなりました(没後に『縄遊戯 雪村流縛り方講座 永久保存版』として発売されます)。
没後に関係者が編集して発売された『縄遊戯 雪村流縛り方講座 永久保存版』。
2時間のレッスンを超過し、Akiちゃんは、着替えに奥に入ります。
「おもしろい子や」「ボキャブラリーもってるからな」
「やっぱし、気(性癖)があるかないかやな。」
「なんぼべっぴんさんでスタイル良かっても気がなかったら面白ないもんな」
着替えから戻ったAkiちゃんに、
「ずいぶん、縛った様子はええですよね」
「そんなけマゾの世界に入れたら、ええですよ」
Akiちゃん、緊縛の楽しさを知ったのがつい最近で、現在いろんな縄サロンに行こうとしていると伝えると
「あんまり、あっちこっち行ったら、荒れるで」
「若いから、性欲あるからしゃあないけどな」
「マゾは欲どおしい」
「まあ、がまんしながらというのが、ええんです」
と、M女の心得みたいなものを教わります。
Akiちゃん、その後もY先生のお気に入りとなり、私以外の生徒さんの受け手も何回かやることになります。
超インテリ女子なのですが、そのせいかどうか、今まで男性にもてなかったとか。
でも、緊縛の世界では、Y先生だけでなく、その後、他の緊縛師さんからもモテモテになります。
妄想の部分でのボキャブラリーが豊富だということが、縄遊戯に最も求められる資質なのでしょう。
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