『メスマー美容術入門02-広がる怪世界』でも紹介しましたが、催眠術が学問的に注目を集め始めた19世紀、外科手術などで痛みを取るために催眠術が使われていました。

「催眠=HYPNOTISM」の名付けの親でもあるイギリスのジェー ムズ・ブレイド(JAMES BRAID, 1795-1860)は、外科医だったのですが、王室外科医学会で催眠による無痛外科切断手術などをデモンストレーションしていたそうです。

なにせ、ちゃんとした麻酔薬がない時代でしたので、外科手術は痛みとの戦い。麻酔無しでメスで肉を切られるとこなんて、想像するだけで失神しそうです。

なのに、催眠で「痛くな〜い」なんてやるだけで、けろっとして手術を受けられる訳です。

「ンナ、馬鹿な」

と思われるかもしれませんが、軽い催眠でも、つねったり、叩いたりの痛みの感覚は簡単に消すことができます。

大切なのは、痛い、辛い等々の人間の「感覚」というのは、「刺激」に基づいて「痛い」とか「辛い」のイメージ世界をこころの中に、いろいろな処理を経て形成しているわけで、「刺激」と「感覚」が必ずしも直結している訳ではないことです。

SM美容術入門9-スパンキング美容術2』でも、「痛み」という感覚は特に個人差がはげしく、同じ人でもある日は少したたいただけで、凄く痛がるのに、別の日には思いきり叩いても、「何それ?カモン!」てな感じのことはよくあります。

また、同じ人に同じようにスパンキングしても、ある日はすごい痣になるのに、別の日には何も皮膚に変化がおこらないというのもよくあります。

 

 

 

さて、話を戻して・・・・

薬を使わないで麻酔できるなんて、素晴らしいじゃない。なんで、今の病院で使っていないの?

と思われるでしょうが、理由としては(1)催眠誘導に時間がかかる、(2)催眠効果に個人差がある、(3)効果の持続に不確定要素がある、ってなとこでしょうか。

手術前に病室で催眠術師が「痛くな〜い」とかやっていて、「まだですか〜。スタッフ集まってるんですけど」「あー、まだあともうちょっと」と、いつになったら深い催眠状態になるかわからず、

「あー、やっぱ、この患者さん、催眠に入るの浅いので無理ですわ」なんてのでは、忙しい現在の病院では、とてもやっていけません。

 

それに、手術中に何かの拍子で急に催眠が覚めて、ギャーってなことにならない保証もまったくありませんし。

なので、良い麻酔薬が開発された後は、手術に催眠を用いることは、あっという間になくなってしまいます。

 

ただし、今でも腕のいい歯医者さんなどは、上手に患者さんに暗示を入れて、

「あれ、もう終わっちゃったの?全然痛くなかったんだけど・・・」って感じで、治療をしたりします。

歯科治療なんて、子供の時から「ものすごく痛い」っていう負の暗示がバンバン入っているので、必要以上に痛くなるのです。

 

 

さて、ジスイズ・オルガズム美容術シリーズではおなじみの性科学学会誌に、「外陰部前庭炎症候群に対する催眠の効果」という論文が出ていましたので、簡単に紹介しましょう。

Pukall, C., Kandyba, K., Amsel, R., Khalifé, S. & Binik, Y. ”Effectiveness of Hypnosis for the Treatment of Vulvar Vestibulitis Syndrome: A Preliminary Investigation.” J Sexual Med 4:417-425(2014)

 

 

「Vulvar Vestibulitis Syndrome」というのは「外陰部前庭炎症候群」と和訳されたりもされ、ようするにセックスする時(あるいはしない時も)にオマンコの入り口が痛くて、とてもできないという症状です。いわゆる「性交痛」の中で、痛みがオマンコの入り口にあるものです。

菌の感染やウイルスによるものなど、原因のはっきりした場合もあり、その時は「外陰部前庭炎症候群」という診断ではなく、ナントカ菌による外陰部前庭部の炎症、とかいうことになり、治療方針もはっきりしてくるのだと思います。

やっかいなのは、原因がよく分からない場合。

病気なんて実際は原因がよく分からないものがたくさんあるのですが、そういう場合、原因を仮定して(あるいは原因はおいておいて)こうかもしれない、ああかもしれないと、いろいろ治療を試すしかありません。そういう試みからいつのまにか治ってしまうこともあります。

原因がウイルス感染やその他のはっきりしたものではないならば、とりあえず催眠で「痛くな〜い」とやっていると、治っちゃうかもよ、というのがこの研究の狙いでしょう。肉体的には何の問題もないのに、変な負の暗示(『メスマー美容術入門17ーノセボ』なんかをお読みください)が入っている場合、この種の取り組みで治ってしまうかもしれません。

 

 

研究を率いるのはカナダのクイーンズ大学心理学部のキャロライン・プコール博士。同大学の「SEXLAB(セックスラボ)」のディレクターでもあります。

地域に住み、性交痛の悩みをもつ15名のボランティアに対して、まず婦人科医師の診断で「外陰部前庭炎症候群」と診断された8人を選び(原因がはっきりとした人や、入り口以外の痛みの人などを除外します。また催眠のかかりやすさを評価するハーバード大学の定量化法があり、これで低い点数の二人も除外されてます。)、これら8人に対して毎週1回、1時間の催眠をかけます。これを6週間続けて治療とし、治療前、治療直後、6ヶ月後の様子を調べたり、聞き取り調査します。

どんな催眠をかけて、どのような暗示を入れるのか、あるいは暗示はいれないのか、に興味があったのですが、それについては何も書いていません。

催眠をかけるのは、催眠の研究者であると書いているぐらいで、かけ方の詳細はまったく書いていません。同じ人が8人の患者に催眠をかけたようです。

痛みのテスト(綿でこすった時の痛さ)や、膣周囲筋肉の緊張度、性交時の痛さ、非性交時の痛さなどが分析されてますが、なにせ「8人」という少ない数なので、一般的な結論を引き出すのは難しく、予備的な研究といった感じです(著者らがそう言っています)。

それでも、8人の被験者は、何れも多かれ少なかれ、性交痛は改善したということで、催眠療法が、この分野で使われていくのもありではないかといった感じでまとめています。

 

なかなか「催眠術」を積極的に医療に取り入れるのは難しいかも知れませんが、外科治療や薬では改善しないものの、催眠療法で改善する痛みというのも、意外とたくさんあるのかもしれません。

 

「火渡り」という儀式ですが、この手の修業、世界中のあちこちであります。普通考えると熱いですが、熱くないのです。

 

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連載『メスマー美容術入門』