毎度、面白ネタを提供してくれる、国際性科学学会の学会誌、ジャーナル・オブ・セクシュアル・メディシンから、今日はベルギーのアントワープ大学、モレン博士の率いるグループの「ベルギーの変態」に関する論文を紹介してみましょう。
論文のタイトルは「Fifty Shades of Belgian Gray: The Prevalence of BDSM-Related Fantasies and Activities in the General Population」で、「ベルギーの一般市民でのSMの広がりに対する調査」とうことです。
ネットアンケートで「あなた、SM好きですか〜、やってますか〜」って調べて見ました、という論文です。
どうってことない、というか、よくこんなので論文にするな、という感じの研究なのですが、読み方によっては面白いです。
研究目的ですが、まず
「世の中、SMが急激に広まっているのに、2013年度版の『精神障害の診断と統計マニュアル』では、まだサド・マゾが変態行為として分類されれいる。おかしんとちゃうか?」
ということです。
ふむふむ、SMがそんなに流行っているのだ。いいことです。
ここに出てくる『精神障害の診断と統計マニュアル』というのは、米国精神医学会が定期的に出している、疾患の定義を共通化する本みたいなものだと思います。ここにリストされているということは、ある意味、正常でないということになるようです。
「同性愛(ホモ・レズ)だって1973年版の『精神障害の診断と統計マニュアル』からは外されているに(SMがまだリストされてるのは納得いかない)」
ということで、では、いったいどれくらいの割合で、SMが生活に浸透しているのかを調べて見ましょう、というのが研究開始のモチベーションらしいです。
研究方法はいたって簡単。メールで「ギフトカードあげるから、『特別テーマ』に関する15分ほどの質問に答えてちょうだい」てのをベルギー市民8,041人に出します。
「特別テーマ」なんて怪しいメールですね。でも「SM趣味に関する質問」って書いちゃうと、SMに興味ない、というか嫌いな人はそこで、ポイッとメール捨てちゃうので、あえて「特別テーマ」に関する質問、といいことで隠しているんです。
ギフトカードもらえるならいいか、とポチッとボタンを押して2,764人の人がアンケートを開始します。
そのうち、途中でアンケートに答えるのをやめた人が1,737人。最後まで答えた人が1,023人で、この約千人のアンケート結果をもとに分析していきます。年齢、性別などは上手い具合にばらけています。
質問内容は54のSM関連項目に関して、
- そんなことしたことありません
- 興味ないけど、まあいいんじゃないの
- 考えたことないけど、やってみたいな
- やってみたいと思ったことあるけど、まだチャンスがないんです
- やってみたくてたまらないけど、まだチャンスにめぐまれないんです
- やってるけど、あまり好きでない
- やってるよ。大好きです。
- いつもやってます
- もう、これなしじゃ生きていけないぐらい大好き
の9段階で答えてもらいます。
分析する時にはこれを「SMに興味なし」「妄想楽しんでいるが実践はしていない」「SMやっている」の3つにまとめて結果をだしています。
54の項目のうちのいくつかの内容が論文に出ていますが、例えば
「氷を使ったプレイ」「目隠しプレイ」「拘束プレイ」「主従プレイ」「ご主人様の前にひざまずく」「奴隷誓約」「スパンキング」「ご主人様とお呼び」「ムチ」「乳首の洗濯バサミ責め」「ローソクプレイ」「強姦ごっこ」「言葉責め」「夫婦交換」「窒息責め」
といった感じで、研究者の嗜好が伺い知れて楽しいですね。
こういのって、アンケート内容を作る時が一番楽しそう。
で、気になる結果ですが、実に46.8%(なのでほぼ半数)の人は「SMをやって」おり、さらに22%の人がSMの妄想を楽しんでいるという・・つまりおよそ3/4のベルギー人がSMファンだということが明らかになったということです。
3/4ですよ!
「アブノーマル」が「正常でない」つまり「マイナリティー」と定義できるなら、1/4しかいないSMに興味ない人達こそが、「ヘンタイ」というわけです(そんなことは書いていませんけどね)。
まあ、しかし、この手のアンケート調査は、いくらでも調査側の都合の良いように結果を誘導できるもので(意識的ででも、無意識的でもね)、この論文の著者達の強いSMへの思いが、このような結果を誘導したのでしょう。
ディスカッションでは、過去の同様の研究がオランダやカナダでおこなわれているが、それらの結果ではSMマニアは数%にとどまっている、と紹介しています。アンケート調査ってのは、このように簡単に一桁ぐらい結果を変えられるのが、恐ろしいところです。
彼らの調査は、上の54質問に続いて、14の項目に対して、どれぐらい好きかを答えさせ、SM嗜好を探っていると書いており、論文には10項目の結果だけ書いています。それは
楽しそうですね〜。
あとの4項目が何だったのか、いろいろ想像するのも楽しいです。
ところで、この論文のタイトルの「Fifty Shades of Belgian Gray」って、お分かりの方もいるでしょうが、何年か前に少し話題になった
「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ 」っていう映画にかけているんです。
主婦の書いた携帯小説みたいのが映画になったやつで、「処女で美人の女学生が、金持ちイケメンのM女として育て上げられていく」といった、トホホのストーリーです。
興行的には成功しており、第2作が来年にも公開されているそうですが、内容的には最低最悪の映画を決める「ラジー賞」の2015年度の、栄えある最悪映画賞に輝いたいわくつきの映画です。
ベルギーでは今頃これが流行っているのですかね?アンケートを実施したのが2017年の2月とありますから、昨年ぐらいにブレイクしていたのでしょうか?
サド侯爵やマゾッホの作品をもじったタイトルなら、まだしゃれてたかもしれませんが、よくまあこんな軽いタイトルをつけたものだと、感心してしまいます。
(文献)Holvoet, L., Huys, W., Coppens, V., Seeuws, J., Goethals, K. & Morrens, M. Fifty Shades of Belgian Gray: The Prevalence of BDSM-Related Fantasies and Activities in the General Population. J Sex Med 14, 1152-1159 (2017).
「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ 」の予告編・・・ではないので間違えないように。
似たような路線の「私の奴隷になりなさい」ですが、日本人にはこちらの方がピンとくるかもね。