メスマー美容術入門24-エロ催眠1』ではメスマー大先生の時代(18世紀)から、前世紀である1990年代までの「エロ催眠」の流れを駆け足で紹介してきました。

「印刷物」「舞台」「映画」「TV」「ビデオ」とメディアの進化と共に、エロ催眠の発信方法やスタイルが変わってきたのが分かると思います。

これは、「緊縛」も同じで、日本のエロ緊縛の歴史も、歌舞伎や文楽などの「舞台」の責め場シーンや、それを紙で伝える錦絵などの印刷物に始まり、明治・大正時代の大規模なエロ出版物、「映画(特に戦後のピンク映画)」、1970年代のエロ「TV」放送、1980年代からの「ビデオ」と、発信メディアの中心が変遷し、また、その内容も進化していきます。

では、今世紀の「エロ催眠」はどう変化してきたでしょう。

 

メスマー美容術入門24-エロ催眠1』では、エロビデオ文化の神様のような代々木忠の「エロ催眠」分野での足跡を辿ってみました。

代々木忠は、ピンク映画の監督から始まり、アダルトビデオの黎明期にビデオ世界に乗り移って来た人です。

アダルトビデオには、このように映画畑から乗り移って来た人達と、いわゆるビニ本などの出版畑から参入してきた人の2つのグループがあります。

初期のエロビデオ作品は、1作品が30分の世界。

今のように、1作品が、だいたい2時間という時代とは違います。

しかも、お値段が1本2万円、3万円と、今の10倍ぐらいした時代。

今では考えられない時代ですが、作り手も時間とお金をかけて制作し、それなりのお金を儲けていた時代です。

今のAV女優さんとかは、下手をすると会社員と変わらない収入しかないようなケースもありますが、当時は、ビデオ女優になって、一軒家を建てちゃった、といった時代。

それだけの覚悟で入ってこなければならない時代でもあった分けですけどね。

1982年の女王様ビデオの雑誌宣伝。60分VHSで3万円していた時代です。

 

話が脱線しましたが、そういうのが、1980年代、1990年代のアダルトビデオ文化の流れ。

前回はTVの方の話を割愛しましたが、1970年代-80年代は、TVでも結構エロい番組が流れていました。

ゴールデンタイムの子供も観るドリフの番組でも乳首が映っていたり、もう少し遅い時間帯の「11PM」などでは、SMショーやストリップショーの紹介なんて普通にやってました。11PMとか、きっとエロ催眠の紹介なんかもやっていたのでしょうね。

1990年代の後半から2000年の始めになると、「深夜時間帯」のTV放送がどんどんエロ化し、ほとんどAV番組化していた時期もあります。

この時代で伝説として残っているのが、深夜1時からやっていた「フジテレビ史上最低・最狂のお下劣番組」(番組がそういう風なキャッチで売っていた)『A女・E女』という番組。1997年から半年ぐらい放映されていました。

この番組では、後に小説家として有名になる松岡圭祐が催眠術師として登場し、スタジオに集まった大勢のAV女優やモデルに集団催眠をかけ、オナニーなどをさせるという、今ではあり得ない内容の企画がシリーズ物として人気を集めていました。

TVの影響力というのは、おそらくエロビデオなんかよりずっと大きいでしょうから、この松岡圭祐の「エロ催眠」の発展への貢献というのは、過小評価できないのではないでしょうかね。これを観た、世の普通のエロ男性は、「オレも催眠で、女の子をエロエロして、ものにしちゃおう」なんて考えたものだと思います。

深夜番組「A女・E女」の集団催眠シーン。YouTubeに時々アップされるのですが、すぐ削除されるみたいなので、貼付はしていません。「A女・E女」でサーチしてみてください。

 

さて、平成に入ると、インターネットが急激に広がります。

インターネットの登場はビデオからDVDにメディアを変えていた動画文化、および雑誌などのテキスト文化・画像文化に大きな変化をもたらします。

メディアとしてのインターネットの登場で、雑誌、DVD、TVなどのそれまでのメディアはほぼ駆逐されつつあります(特にエロの分野では)。

われわれが現在スマホやPCで使っている、画像や音声、および動画が主体のインターネットは、1990年代の中頃に登場したものですが、その原型は、1980年代に始まった、「パソコン通信」。

「パソコン通信」では、テキスト、つまり文字情報のやりとりでのつながりです。LINEみたいな感じかもしれませんが、電話回線でデータをやりとりしていた時代ですし、そもそもPCそのものがまだ普及していませんでしたので、一部の人の間で盛り上がっていたに過ぎません。

1990年代に入り、wwwの規格が広がり、いわゆるインターネットによるつながりが広がります。

初期のインターネットのブラウザはMOSAICやNETSCAPEでした。

 

携帯電話も普及し、さらに携帯電話からのインターネットへの接続が可能となるのが、1990年代の終わり頃。

インターネットを介した人と人のつながりは、やがて、同じような趣味をもった人達のネット上でのサークルへと発展していきます。

もちろん、SM、緊縛、催眠、といった怪しい趣味のサークルもどんどんネット上で生まれます。

日本全国、あるいは世界中の変態仲間が、インターネットでつながる世界となったわけです。

 

インターネットが登場する前の時代には、緊縛も催眠も、なんだかプロの人だけが扱えるる、手の届かない世界だったのが、だんだんと「オレにもできるかも」の「誰でも緊縛師」「誰でも催眠術師」の時代へと入って行きます。

ネット上での情報だけの集いから、実際に会って情報を交換する「オフ会」というのが盛んになるのも2000年前後です。

ネット上の緊縛サークルは、「緊縛オフ会」さらに「縄会」へと進化し、「誰でも緊縛師」の時代にいたります。

同様に、ネット上の催眠サークルは「催眠オフ会」へと進化し、同好者の間での情報交換を通した技術の向上が一挙に起こり、「誰でも催眠術師」化が起こります。

現在、日本催眠術協会の理事である南裕氏が、 1999年からネットのオフ会「催眠術OFF会」を開催しています。その記録を眺めると、RED氏やコーピーポット氏などの、後のエロ催眠の中心なる人達が参加していたのがわかり、インターネットとエロ催眠の進化との関係が伺い知れて面白いです。

メスマー美容術入門24-エロ催眠1』でも書いたように、AV世界への催眠技法の本格導入は代々木忠によります。

ほぼ、基本的なエロ催眠の技法は、全て代々木忠により1980年代のうちにやりつくされている、と言ってもよいかもしれません。

ただ、代々木忠はあくまで「女性のオーガズム」に興味があり、いわゆる催眠マニアではありません。

一方で、催眠マニアの興味はどうかというと・・・これはまた、マニアの世界なので多様なのですが、「催眠にかかっで脱力している女性の姿が好き」「暗示でロボットのように動く姿が好き」「失神する顔が好き」「目が寄っているのがたまらない」「催眠ストーリーに萌える」と、これまたいろいろで、マニアっぽく変態です。とにかく変態はどの分野でも多様なのです。

さらにややこしくなりますが、前回も書いたように、AV製作会社にとっては、特に催眠マニアを相手に商売をしている分けではありませんので、売れればOKです。「催眠」と銘打っていいてても、実際は催眠にかかったフリをしているだけでも、多くの場合は、売れれば別にOKなのです。購買層のターゲットを催眠マニアに絞るか、もっと広いエロ男性に絞るかで製作方針も異なってきます。

代々木忠とかは、オーナーシェフみたいな感じでAV作品を製作している人なので、ある程度、採算のことを考えずに自分好きな作品をつくれるのかもしれません。ですので、ガチで催眠かけて、どこまで「女性のオーガズム」が深められるか、といった実験的な作品を製作できます。というか、1980年代は、まだまだAV業界にそのような余裕があった時代だったのかもしれません。

 

さて、1990年代からインターネットを通じて結束力の強まってくるアマチュア催眠マニアの集団。AVメーカーにとっても、重要な購買層となり、無視できなくなります。

2003年あたりから、AVメーカーとアマチュア催眠マニアの集団との動きが面白くなります。

まず、上で紹介した「催眠術OFF会」を主催していた南裕氏や、当時のエロ催眠関係の情報をまとめて発信していた『大人のための催眠術』の主催者であるTMiyabi氏を核として、「自分らで催眠マニアが納得するAV作っちゃえ」という動きが始まります。

TMiyabi氏のサイト『大人のための催眠術』は、催眠AV作品のリリース状況や、独自の視点(つまり、モデルが可愛いいか、エロいか以前に、催眠マニアが喜ぶシーンがあるかの視点)での評価付けやマニアが提案するシナリオ・小説などを集めた、催眠の総合デパートようなサイトでした(もうありません)。

TMiyabi氏らが脚本を書き、南裕氏らが監督、アマチュアの腕の良い催眠術師が出演したのが『催眠調教』シリーズです。

第1作は後にエロ催眠術師の中心人物となるRED氏が出演。「催眠術OFF会」の参加者でもあります。

値段は少し高めの設定だと思いますが、催眠マニアを購買層に想定しでもDVD製作の収支がとれる時代になったわけです。

これには、催眠マニアの拡大と共に、ビデオカメラの小型化、低価格化や編集作業の簡便化、編集ソフトの低価格化の流れも関係します。

深い専門知識がなくても、簡単に商品ベースのAVを作れる時代になりました。「誰でもAV製作者」の時代ともなったわけです。

 

 

2000年代はエロ催眠AVの黄金時代です。

同じく、2003年に、こちらは一般AVメーカーの「アウダースジャパン」で面白い動きがあります。

「アウダースジャパン」は、2000年創立の、比較的新しいAV製作会社。ちょうどメディアがVHSからDVDに変わるころです。

2000年から始まる『FACE(フェイス)』シリーズがヒットとなり、ハイピッチで『FACE』シリーズをリリースします。

内容は、毎回一人の女優さんに焦点をあてて、オナニーして、フェラチオして、セックスしてといった、きわめてオーソドックな内容なのですが、シリーズ11作目の『FACE 11 岡田純菜』で、初めて「催眠コーナー」というのが登場します。

お面をかぶった謎の催眠術師(といっても、催眠マニアの間では、声聞けば一発で分かる、TVなどに良く出ている有名プロ催眠術師です)が、女優さんに催眠をかけ、エロいことをあれこれさせるというもので、これが視聴者の心をつかみ、ますます『FACE』シリーズの人気が上がります。

『FACE』シリーズの代名詞的存在となるこの「催眠コーナー」ですが、2年ほどとで、上記の催眠術師が外されます。

そこで「次のFACE催眠術師の出演をかけての、オープントーナメント」という触れ込みで製作されたのが、アウダースジャパンの『催眠王座決定戦』。ただし、オープントーナメントと言っても、もちろん、脚本のあるお芝居。優勝者は予め決まったデキレースです。

 

 

面白いのは、どうも、この作品に参加しているニアのアマチュアマ催眠術師らには、出来レースであることははっきりとは知らされていなかったようです。

当時のネットへの書き込みなどを見ると、集められたアマチュアマニア催眠術師らの技術がかなりのもので、製作者側をあわてさせたような雰囲気があります。

参加しているアマチュア催眠術師らは、上記の「催眠術OFF会」などにも参加し、南裕氏らのマニア向け催眠AVにも出演することになる、かなりのハイレベルの人達です。

『催眠王座決定戦』に出演していた製作者側(既存AV側)の催眠術師は桜井ちんたろう氏とDick末藤氏(MickyB氏も出ているのですが、アマチュアとしての参加なのか、既にAV製作に関わっていたのか分かりません)。桜井ちんたろう氏もとDick末藤氏もAV男優さんで、催眠も使えるという方達で、Dick末藤氏は、AVの催眠術師としてはかなりのベテランです。アマチュアマニア催眠術師は、ジャケットにはいろいろ名前が入っていますが、映像として焦点があてられているのはRED氏。

作品自体は、桜井ちんたろう氏が優勝(一番、エロイ催眠をかけられたということ)で、『FACE』シリーズの催眠術師として、お面をかぶった謎の催眠術師の後を継ぎます。

ただし、1年少したつと、 『FACE』シリーズの催眠術師は、『催眠王座決定戦』でかなりの腕前を見せていたRED氏に交代し、2004年からアウダースジャパンの催眠作品の黄金期を迎えます。RED氏のプロへの転向です。

エロ催眠術師RED

『FACE』シリーズ、『裏FACE催眠 [赤]』シリーズ、『催眠 赤』シリーズ、『催眠 赤 DX』シリーズと、2010年代の中頃まで、アウダースジャパンとRED氏による催眠作品が数多くリリースされます。2000年代の終わり頃には、これらの作品の脚本や監督を担当していたスタッフが、別の流れを作り、これが現在の催眠AVレーベルの催眠研究所へとつながります。

RED氏と共に、エロ催眠術師で忘れてはならないのが、コーヒーポット氏。

エロ催眠術師コーヒーポット

コーヒーポット氏は、ひとあし早く、1999年頃からエロ催眠術教室などを開催し、2000年からはパラダイスTVやステージショーを媒体にエロ催眠活動を精力的におこなっています。

緊縛の場合もそうですが、その術師がもつ「才能」「天性」ももちろんのことなのですが、「場数」をいかに多く踏んでいるかも重要なポイントです。

そういった意味では、このRED氏とコーヒーポット氏は、(あくまで「エロ催眠」という分野の中ですが)「才能」と「場数」をどちらも持ち合わせ、前世紀の代々木忠から始まった、日本のエロ催眠を、今世紀に入り、大きく発展させた二人だと考えてよいでしょう。

 

残念ながら、日本のAV産業そのものが衰退の一途をたどっており、それにあわせて「エロ催眠AV作品」もかつての勢いはありません。

これは緊縛やSM作品も同じこと。

それに合わせて、アマチュアの催眠術師や緊縛師がたくさん現れ、「誰でも催眠術師」「誰でも緊縛師」があふれてきたのが、今世紀の特徴です。

良い悪いは、別にして、そういう時代なのです。ごく少数の、それだけで生活をしていけるプロの緊縛師や催眠術師に加え、たくさんのアマチュアに毛の生えたような緊縛師や催眠術師が、次々と誕生してきています。

もちろん、サロンさんも、そんな「誰でも催眠術師」「誰でも緊縛師」の一人にすぎません。

 

TED(正確にはTEDx)という硬めでもイベントでも催眠術が取り上げられています。いまだに「催眠術はウソかマコトか」ってテーマで、視聴者の興味をひくことができるんが、催眠術の面白い所。

無駄なアクションが少なく、速やかに深いトランス状態に入れてますね。お見事。

 

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