19世紀末のヴィクトリア時代に、「振動子」(バイブレーター)を用いた医療が広まり、20世紀の初頭まで続きました。民間療法ではなく、正式な病院で医師がおこなう医療行為としておこなわれていたのです。「Vibrotherapy(バイブロセラピー)」という名称が残っています。日本語に訳すると「振動子療法」というところでしょうか。 

 

「振動子療法」はどのような疾患に用いられていたかというと、主に「ヒステリー」の治療です。19世紀にはわれわれが現在想像する以上に、病的な「ヒステリー」が女性に広まっていた時代です。その理由はわかりませんが、一つには女性の性をいびつに抑圧する当時の文化的背景があるのかもしれません。フロイドの精神医学がヒステリーの治療・原因解明に深く関与して発展した事実も頷けます。 

医学療法としての「振動子療法」は、当初、現在の物理療法のように、いろいろな疾患の治療に用いられていたようです。当時の技術の発展がいち早く取り入れられ、最初は手動であった振動子も現在のような電動式のバイブと進化します。最初の電動式バイブは1878年にパリで医学治療に利用されたとする記録が残っています。 

最初は、ヒステリーで悩む女性が通院し、診察室の診察台の上で医師の手で「振動子療法」うぃ受けていました。簡単にいうと、病院でお医者さんに逝かせてもらうわけです。そうしてストレスを発散することが、ヒステリーの治療につながるのです。当時の女性は、人間としての性を自由に喜ぶことができない不自由な環境にあったことを理解しなければなりません。 

やがて、電動式振動子は小型化、低価格化し、当時ヨーロッパで広まった女性向けファッション雑誌の広告などに出現します。もちろん、直接的な表現は避けた「健康のための電動式振動子」といった広告です。この状況は、今でも続いているので、微笑ましいですね。 

写真は1920年(日本では大正時代)から生産された、英国製の医師のための「振動子治療セット」です。何を、どこにどうつかうのか、いろいろと妄想できて興味深いです。ロンドンの「科学博物館」に所蔵されています。

 

 

『ジスイズ・オルガズム美容術』