(『SM美容術入門43-縄空間の共有』と『メスマー美容術入門21-トランス空間の共有』は同じ内容です。)

 

SM遊びの好きな女性はよくご存知のこと。

プレイの終わったあとの、あのなんともいえない充実感と幸福感。

縛られて、痛いことされて、あんで気持ち良くなるのでしょうね?

 

また、そんな甘言並べて、『ミーツー』みないな気の毒な女性を増やしているのでしょう

いえいえ。ほんと、心も体も開放されるのです。

ちまたのSMバーなどに、縄を求めて女性が集まっているのをご覧になればお分かりでしょう。

ご主人様にいやいや連行されてきた気の毒なM女さんではないのです。

つまり、SMプレイは、なぜか気持ち良く、幸せになるもなのです。

ということは、やっている人達にとってはアタリマエのこと。

 

あんたら、変態だよ!

 

まあ、そうです。

とにかく、なぜ幸せで、楽しくて、リラックスするのかを、もう一度考えてみましょう。

 

 

 

これは、『SM美容術入門24-縄で心をコネクト』で使ったイラスト。

SMプレイを開始すると、プレイヤーの間に二人だけの『臨場空間』が形成されていき、『心がコネクトされた状態』になるということを示しています。

SM美容術入門22-縄で創る臨場空間』を読みなおしていただければこの『臨場空間』ってのがどういうものか分かるかと思います。

少し『臨場空間』に説明加えますと、「部屋の中にチンポがある」とします。

実際にほんとに部屋があって、ほんとにチンポがあるのかもしれませんが、われわれはその実在を直接知ることはできません。あくまで五感を通した間接的な情報のみ。

しかも、過去の記憶などをエコ利用しながら、少ない感覚情報でリアルなイメージを作り出しています(『SM美容術入門28-縄空間の深層』参照)。これが『臨場空間』とか『イメージ空間』。頭の中のもう1つの世界、でも、それがヒトにとっての現実の世界、って感じでしょうか。

 

抽象的で、小難しいことを言って、煙に巻こうとしているのだな、と思われるかもしれませんが、このような考え方は、それこそプラトンとか、荘子などから始まり、現在の認知科学まで続く、アタリマエの考え。

われわれにとって、世の中は、頭の中に形成する、イメージ空間にしかすぎない、というわけです。

 

エッチなことを妄想してオナニーするときには、動画見たり、エロ小説読んだり、エロムードの音楽聴いたり、体のあちこと触ったりで、五感を総動員でこのイメージ空間を膨らましていきます。

二人でおこなうSMプレイの場合は、この『イメージ空間=臨場空間』作りを、二人でおこなうわけです。

それぞれのプレイヤーの頭の中に、それぞれのイメージ空間が膨らんでいくわけですが、この空間をうまく二人で共有できたら、二人の心がコネクトされた、ってことです。

恋愛でラブラブのカップルの一心同体と同じ状態です。

 

こういう『心がコネクトされた状態』を『臨場空間が共有された状態』と呼び、これをめざして頑張りましょうというのが、『SM美容術入門24-縄で心をコネクト』の趣旨。

三大縄神様の一人である雪村春樹が教えていた緊縛ってのが、まさにこういう状態をいかに効率よく確立するかということでした(『SM美容術入門26-縄遊戯』参照)。

SMプレイだけでなく、ダンス、演奏、武道、スポーツなどなど、いろいろな場面で、このよなうな『臨場空間が共有された状態』は形成され、そして、そのような状態になると、大きな満足が得られます。

 

上のコネクトされていくイラストは、サロンさんのお気に入りの作品なのですが、最近読んだ本の中に、似たような図を見つけたのでご紹介しましょう。

その本は、 松木繁という人が監修した『催眠トランス空間論と心理療法──セラピストの職人技を学ぶ』という書籍。

 

 

でた〜、<催眠>、<トランス>、<セラピスト>・・全部怪しい〜!

と思われるかもしれませんが、松木繁という人は、ちょっと前まで鹿児島大学大学院の臨床心理学研究科の教授だった人。この本は退官を記念してまとめた書籍のようです。

大学の先生だから怪しくない、ってわけではないかもしれませんが、マジメに催眠術で心理療法をやっておられる、日本では珍しいアカデミック分野での催眠療法家。

メスマー美容術入門』シリーズで紹介してきましたように、ほとんどの心理療法は、ルーツを辿れば18世紀の催眠術療法にいきつきます。

うちの○×派は、催眠術なんて怪しいのは、使ってませーん!!」てお叱りを受けるかもしれませんが、『メスマー美容術入門06-カリスマ登場』『メスマー美容術入門07-トランス誘導』で紹介したように、ミルトン・エリクソンの導入した催眠状態の拡張定義では、トランス状態を利用して、催眠療法が可能となります。

なので、現代的な催眠療法では、「あなたは眠くなりま〜っす」ってのは、ほぼ使われることはありません。

 

松木繁という先生が大学で催眠療法を始めた頃は、まだ日本では古典的な催眠療法が中心的だったようです。

つまり、「あなたは眠くなりま〜っす」てな感じで、被験者が眠ったようなトランス状態に入り、そこでいろいろ暗示をいれて、覚醒させておしまい、って感じ。

そこには「催眠をかけるエラい先生」と「催眠をかけられて治療される患者さん」といった強い力関係があります。

こういう命令的、指示的な状況では、時として患者(クライエント)の強い抵抗(表だった抵抗でなくても、深層レベルでの抵抗も含めて)が生じる場合が多いので、よろしくない、というのがミルトン・エリクソンや、あるいはその時代の臨床心理学者の考え方。

そこから、非命令的で非指示的な現代催眠が生まれます。

そこでは、クライエントの抵抗をいかに防ぐかにかなりの注意が払われています。

「催眠をかけるエラい先生」と「催眠をかけられて治療される患者さん」といった関係ではなく、「クライエントが自ら良い方向に進んでいけるように微調整をしてあげる施術者」といった風の考えがベースを支えます。

つまり、クライエントが中心で主体。催眠にかかるのもクライエントの自己催眠(『メスマー美容術入門18ー自己催眠』参照)だし、問題が解決するのもクライエントの自発的な治癒力というわけです。

といった考えが、ミルトン・エリクソン周辺の考えなのですが、もっとも『メスマー美容術入門16-何でもモデルゥ』で述べましたように、こういった心理療法モデルは、世の中に『10万種以上』あるそうで、どれが正解、っといった世界でもないことはご注意ください。あくまで、こういう考えをしている人達もいる、という程度。

 

で、話を戻して、松木繁先生。

この方は、ミルトン・エリクソン流派という訳ではないのですが、結果的には、古典的な「先生」と「患者」といった上下関係がある心理治療から始めて、だんだんと、ちょっとこれは違うのでないかなと、自らの治療法を改善していくうちに、結果的にはクライエント中心主義に落ちついた、という歴史をもちます。

本の中には、いくつかの面白い失敗経験なども書かれており、例えばごくごく初期には、チック症(目をパチクシャしてしまうクセ)をもつ子供の治療の時、催眠状態で「あなたは目を覚ますと、もう目をパチクシャしな〜い」とやってしまったそうです。やってしまっと、というのは、当時でも、そうのような直接的な指示暗示は治療にはつながらない、といことが教科書に書いてあったそうですが、若気のいたりというか、松木繁先生がいうところの「万能感が顔を出していた」ために、思わず指示してしまったそうです。

それで、その子供はどうなったかというと、目を覚ましたあと、目をパチクシャするクセは見事になおったのですが、今度はビートたけしのように、肩をピクピクさせる肩のチック症が発現し始めた、という教科書通りの結果となったそうです。

この「万能感が顔を出す」というのは、縄を習い始めて少し上手くなった時、あるいは催眠を習い始めて少し上手くなった時、に誰でも感じることでしょう。

ひょっとして、自分、才能あるのと違う?縛る相手、かける相手、見事のヘロヘロになってるし

なんて思ってしまうのですが、それは間違い。実は主体は、縛られる側、催眠をかけられる側にあるのであって、縛り手、かけ手は、受け手が臨場空間を広げ、深いトランス状態に自ら入るのを、お手伝いしているにすぎません。

 

それでは、SMや緊縛や催眠で、受け手だけが臨場空間を広げ、深いトランス状態に入って楽しんでいるのかというと、そうでもないでしょう。お互いに深いトランス状態に入り、『臨場空間を共有』している状態になるることによってのみ、お互いが深い満足感・幸福感を得られるのだ、というのが『SM美容術入門24-縄で心をコネクト』の趣旨。

「お互いに深いトランス状態に入り」ってのは、ミルトン・エリクソン流派のある流派では当然のことで、「被験者をトランスに誘導する前に、まずあなたが深い催眠状態に入って下さい」なんて、普通に教科書に書いてあったりもします。

実際、深いSMプレイをおこなうと、サロンさんも記憶喪失とか時間歪曲といったトランス状態に特有の現象が起こりますし、明らかに受け手のトランス状態に引っ張られて深いところに落ちていく実感もありますので、どちらが先かは別にして、最終的なお互いに深いトランス状態に入っているのは間違いありません

 

 

SMや緊縛の場合(あるいは心理療法もですが)、完全に二人が対等では、なかなかプレイを組み立てるのが難しく、あらぬ方向に暴走する可能性もありますので、程度の差はあれ、すくなくとも少しだけでも縛り手・責め手・かけ手の方が、受け手・被験者を『リード』してあげることも忘れてはなりません。

 

またまた話が脱線していまいましたが、『催眠トランス空間論と心理療法──セラピストの職人技を学ぶ』で興味をひいたのが、松木繁先生が、自分の催眠療法の進化を示すために使っている下のイラスト。

サロンさんの『SM美容術入門24-縄で心をコネクト』で使ったイラストに似ているなと。

左の図は古典的催眠で心理療法をおこなってた時代。療法家(右の青丸)が、「あなたは眠くな〜る」と上から目線でクライエントに催眠術をかけるパターン。次第に、「あなたは、催眠状態にはいるかもしれませんね〜」といった、現代催眠的なトランス誘導型に変化し、最終的にはクライエントとセラピストが同じトランス空間を共有することで、クライエントが自らの力で治癒していくといった形に落ちつきました、ということを説明しています。この共有するイメージ空間のことを、松木繁氏は『催眠トランス空間』と呼んでいるわけです。

 

松木繁催眠トランス空間論と心理療法──セラピストの職人技を学ぶ』の図を基に再作図。

 

つまり、「情報空間を共有」というところで、話が一致していますし、この情報空間が、松木繁氏の場合は『催眠トランス空間』になる訳です。

ついでに述べますと、この『催眠トランス空間論と心理療法──セラピストの職人技を学ぶ』は、前半は松木繁氏の研究の歴史、後半は松木繁先生のお友達の論文集みたいな感じで、この後半も結構面白いです。松木繁氏の門下生というよりはむしろ、『10万種以上』ある心理用法モデルの中で、松木繁氏に近いモデルで、でも異なるモデルをもっている人達がいろいろ出てきます。「ツボイメージ療法」や「(おはなしのみの)トランス療法」、「タッピングタッチ」、NLPなど、いわゆるミルトン・エリクソン流派、あるいはアドラー派の人達などなどが登場します。基本的にはこれらの人達はいわゆる催眠誘導はつかわず、広義の催眠誘導=トランス誘導を使う人達です。

 

では、そういった「情報空間を共有」した状態になると、例えば催眠療法の場合、なぜクライエントは良い方向に向かっていくのでしょうか?何か、その状態で暗示でもいれるのでしょうか?

ここもミルトン・エリクソンのいろいろな流派や、ミルトン・エリクソンではない流派でもいろいろな考えがあるのですが、1つには「なぜだかわかんないけど、そうなるんですよね〜」ってのがあり、これがサロンさんの好きな考え方。なぜだがわからないけど、深い部分でつながると、人間が本来もっている立ち直る力や、良い方向に進む力が活性化され、不思議なことに全てが良い方向に進み出します、といった開き直った考え方です。 

 

プレイの終わったあとの、あのなんともいえない充実感と幸福感は、このような 「情報空間を共有」した状態からもたらされる、人間の本来の力の活性化からもたされるものなのでしょう。

もちろん、こういった人間が本来もっている立ち直る力や、良い方向に進む力が活性化される状態になるのは、SMプレイに限ったことではなく、いろいろな芸術活動、スポーツ、あるいはノーマルなセックスや、恋愛などでももたらされるものですし、『SM美容術入門36 -1, 2, 3・・・1』でも述べたように、究極的には、一人でこの状態になれると、いわゆるマインドフルネスや、悟りに関連した境地に達せるという訳です。

 

 

 

 

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連載『メスマー美容術入門』