『縄と肌』とは作家・団鬼六のSM小説の名前。映画にも何回かなっている有名作です。そう、縄と肌の関係はとても奥深いのです。

 

 

 

SM美容術入門』シリーズの31回目ですが、お話しとしては前回の『タッチ』(「オルガズム美容術」シリーズ)から続いています。まだ読んでない人は、『タッチ』から読んでくださいね。

 

「コミュニケーションを取る」、つまり誰かと何かのメッセージを交換する、でまず思いつくのが。「声に出して話して」「耳で聞く」でしょうか。

あるいは、メールを書き、相手からのメールを読む、というのをまず思いつく人もいるかもしれません。

それぞれ、言葉(音声)を使った情報伝達、文字を使った情報伝達で、聴覚や視覚を用います。

電話やメールの場合には、コミニュケーションを取る相手が近くにいませんので、基本的にシグナルとしては音声や文字のみが交換されることになります。

でも、相手があなたの傍にいるなら、言葉や文字からのメッセージの他にも、相手の表情や仕草もメッセージとして伝わって来ます。このように、生物は、コミュニケーションを取るときには、使えるチャンネルを全て用いて、伝達情報量を最大化しようとします。

 

「あなたのことが好き」というメッセージを伝える場合を考えてみましょう。

メールを送るにしても

「好き」

「好き♥」

「すき〜」

「好・・・・き!」

などなど、いろいろなニュアンスを出すことができます。つまり、工夫することで「あなたのことが好き」の情報量を増やすことができます。

言葉で伝える場合も、声の大きさ、高さ、スピード、質などを変えることで、いろいろな「好き」を伝えることができます。

 

相手があなたの傍にいるとすると、伝えることのできる情報量は飛躍的に増大します。

顔の表情、視線の微妙な動き、身振り手振りを加えることで、「好き」というメッセージの幅はどんどん広がります。

極端な場合は、言語としては「好き」と発しながら、全体のメッセージとしては「実は嫌い」という内容を、かなり正確に相手に伝えることもできるかもしれません。

コミュニケーションが、非言語的にも成立することがわかります。

 

さらに、体の接触をコミュニケーションに使えるとしたらどうでしょう。

相手の手を握るとしてみても、握る強さ、握る時間、握る位置などなどを変えることで、いろいろな「好き」を伝えることができます。

さらに、ハグする、強く抱きしめる、キスをする、チンポ突っ込む・・などなど、体の接触を使えるとなると、言語がなくても全く不自由なく「好き」という気持ちを相手に伝えることができます。

体の接触を使うと、文字や言葉で伝えられる「好き」というメッセージのヴァリエーションより、はるかにたくさんの、いろいろな「好き」を伝えられると思いませんか?

なんとなく「情報」というと、「言語」「言葉」の方が優れているような気がしてしまいますが、そうとは限りません。

「来月の第三日曜日の午前11時20分に、西武新宿線下りの、各停で新宿駅から3つめの駅で降りて、進行方向にある改札口を出て、左手に曲がって25メートル進んだところの喫茶店の、入り口付近でまっててちょうだい」って、情報を伝えるとなると、「言語」がどうしても必要になりますが、冒頭に書いたように、「好き」「嫌い」「嬉しい」といった感情を伝えるには、必ずしも「言語」でなくてもOKです。

というか、われわれは、あまりにも「言語」に依存した生活にどっぷりつかっていて、非言語的なコミュニケーションの力を過小評価しがち。

 犬や猫を飼っている人は、犬や猫とかなりの複雑なコミュニケーションができることを体で知っていると思います。なんとなく、犬や猫が、こちらがしゃべる言語を理解しているような錯覚に陥りますが、あくまで犬や猫は、われわれの言葉を音のシグナルとして聴き、それに加えて、われわれの表情や、その他の非言語的なシグナルを統合して、複雑なコミュニケーションを確立しています。

 

われわれ自信も、生まれてしばらくは、非言語的なコミュニケーションでいろいろなやりとりを親と交換していました。

その時おそらくもっとも優位に使われている感覚は「触覚」。

母親に抱かれた(父親でもそうですが)時の、抱擁の強さ、肌の温もり、ナデナデしてくれる刺激・・・そういった感覚に、さらにぼんやり聞こえる親の声や、ぼんやり見える親の表情・・そういった未成熟な聴覚や視覚を加えながら、外界とのかかわりを確立していきます。

 

タッチ』でも説明したように、「触覚」というのは、なかなか侮れない、というか、われわれがなんとなく思っているより、はるかに優れた感覚器官。

皮膚の振動、圧迫、ひっぱり、温度、化学刺激(味みたいなもんかな)などを、複数の機能分化した感覚神経で感知し統合して、頭の中にイメージを形成します。

指先で、ミリメートル以下の凸凹を正確に認知できますが、これも、それぞれの感覚神経に入ってきたシグナルのズレや、質の違いを利用しながら、無意識に、しかも瞬時にイメージを形成するそうです。

 

ここまで来るともう、今回の言いたいことはお分かりだと思いますが、SMにおける緊縛の面白さというのは、この「触覚」をフルに使うこと。

体中に張り巡らされた感覚神経をフルに使って、コミュニケーションするんです。

基本的には、ハグしたり、ナデナデしたり、ビンタしたりといった、体の一部を使ったコミュニケーションと一緒かもしれません。

体だけを使ったコミュニケーションとなると、普通のセックスと同じになってしまいます。

まあ、それはそれでよいのですが、せっかく縄という道具を使うのですから、普通のセックス以上のコミュニケーションを楽しみたいものです。

縄を使ったコミュニケーションのメリットを考えてみましょう。

1つは、同時に、体のいろいろなところを刺激できるというところ。 

腕は2本しかありませんから、右手でお尻を撫でて、左手でオッパイ愛撫したら、それで終わり。

口でチューして、チンポをマンコに入れて、足を絡ませると、もういっぱいいっぱい。

でも、縄を使うと、乳房を刺激して、乳首も刺激して、胸を抱擁して、太腿を刺激して、お尻まで刺激する、といった具合に、同時にあちこちの触覚にシグナルを送ることができます。

千手観音のように、手が増えたような感じ。

 

縄は受け手を拘束する道具、と考えてはいけません。

自分の手の分身だと思い、縄で相手を感じ、縄で相手にこちらの気持ちを伝えなければなりません。

 

【Take-home message-54】縄は拘束するためではなく、コミュニケーションするための道具です。

 

 

「縄で相手を感じる」ためには、指先にかかる縄の力(ロード、荷)を敏感に感じる取るクセをつけましょう。

同時に、相手が発す声や表情を聴覚や視覚で感じ取り、細やかな受け手の心の動きを読み取るようにします。

 

「縄で受け手にこちらの気持ちを使える」ためには、肌にかける縄の力、方向、スピードなどを変えながら、それを実現します。

「伝えたいもの」があることが前提ですので、何らかの思いをもったパートナーとプレイすることが大切です。何にも思い入れのない人とSMプレイしていても、上手くはなりません。なので「練習だから」といって、興味のわかないパートナーとプレイするのは時間の無駄です。縄をかける限りは、受け手が何を感じているのか、受け手に何を伝えたいのかを考えるようにしましょう。

 

「縄の結び方」「縄のかけ方」も、もちろん知っていなければどうにもなりませんので、最低限は覚えなければいけません。

ですが、最低限の「縄の結び方」「縄のかけ方」をマスターしたら、あとは、縄の力、方向、スピードなどを変えることで、受け手にいろいろなメッセージを伝えること、および、受け手からのメッセージを縄から受け取ることを練習しましょう。

いくら難しい「縄の結び方」「縄のかけ方」をどんどん覚えていっても、受け手はちっとも嬉しくないんですよ。

縄でしっかりとコミュニケーションが取れるようになると、例え両手首縛りといった簡単なテクニックだけでも、十分に受け手と深いところで楽しむことができます。

 

【Take-home message-55】縄は手の分身と思い、細やかなシグナルを感じ、送るように心がけましょう。

 

 

いわゆる、縄の神様といわれる、濡木痴夢男明智伝鬼雪村春樹といったレベルの人達は、決して難しい縛り方ができるので凄いのではなく、縄を介して自由に受け手と会話でき、またその会話の内容が面白いから凄いわけです。

  

 

Shinkousabreさんというモデルさんが雪村春樹に捧げたオマージュ作品。

 

SM美容術入門30-基本4縛り < SM美容術入門 > SM美容術入門32-練習と本番

 

連載『SM美容術入門』